■ピクシーの置き土産

 サッカースタジアムの照明設備には、大きく分けて2種類ある。スタンドの屋根に照明器具を並べて取り付けるタイプと、4つのコーナーに照明塔を建ててピッチ全体を照らす「照明塔式」である。初期には費用面で格安の「屋根付け型」が多く、「照明塔式」は資金力のあるクラブでなければ建てられなかった。「屋根付け式」は、スタンドの屋根が低く、光のまぶしさでプレーの障害になっただけでなく、観客も逆側のスタンドの照明が目にはいって観戦のじゃまになった。

 1986年にドラガン・ストイコビッチが生まれ故郷のクラブ、ラドニツキ・ニシュからユーゴスラビアきっての強豪レッドスター・ベオグラードに移籍した。その移籍金を使い、ラドニツキはホームのチャイル・スタジアムに長年の宿願であった4本の照明塔をつけることができたという。その照明塔は、現在もピッチを美しく輝かせている。

 だが観客席の大半が屋根で覆われるようになった現代のスタジアムでは、スタンドの屋根に照明を取り付ける形が圧倒的に多くなった。屋根も高くなっているので、「まぶしさ問題」は解消された。屋根によって手前側が影になってしまうので、「照明塔方式」はいまや過去のものとなり、消えゆく運命にある。

 1964年の東京オリンピックでは、サッカー会場として、国立競技場のほか、駒沢競技場、秩父宮ラグビー場、そして横浜の三ツ沢球技場、大宮の大宮サッカー場が使われたが、国立競技場以外には夜間照明はなかった。国立競技場での決勝戦だけは16時半キックオフだったが、他の試合はすべて12時から14時までの間のキックオフだったから、問題はなかった。その後、秩父宮、三ツ沢、大宮には照明塔が建てられたが、駒沢競技場にはいまも夜間照明がない。隣に国立病院があり、夜間に試合をすると照明のまぶしさや騒音で影響があると考えられているからだ。

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