■アクシデントでわかった監督の人間性
この試合では、試合後のインタビューで、勝利の喜びの声を求めるインタビュアーをさえぎって話した甲府の大木武監督の言葉が印象的だった。
「試合のコメントの前に、柏レイソルを迎えたホームチームの監督として、あのようなアクシデントが起きたことを、柏の選手、スタッフ、サポーター、関係者、すべての皆さまにお詫び申し上げたいと思います。どうも申し訳ございませんでした」
Jリーグのスタート以来、千数百を超す試合を取材し、試合ごとに監督たちの話を聞いてきたが、このときの大木監督の言葉ほど、人間としての崇高さを感じたものはない。
海外では、なんども「停電試合」を見た。最初に見たのは1987年、ポルトでのことだったが、あいまいな記憶しかない。10分間ほどの中断だっただろう。インドでは、日本代表が2回にわたって停電に見舞われた。最初は2004年9月、コルカタでのワールドカップ予選のこと。ハーフタイムに照明が落ちてしまい、後半の開始が30分以上遅れた。コンディションが懸念されたが、日本選手はさすがにプロで、小野伸二がFKを決めるなど後半3点を奪って4-0で快勝した。
その2年後、2006年の10月にバンガロールに遠征したアジアカップ予選でもハーフタイムに停電が起きた。だがこのときは、4基ある照明塔のうち、メインスタンドから見て右側の2基だけが消えてしまったのだ。しかし状況を見た香港の審判団は試合続行を決定、後半の大半の時間、日本は逆光の状態で攻めなければならなかった。試合は3-0で勝ったが、後半の得点は中村憲剛のロングシュートのみ。イビチャ・オシム監督は「後半はフィジカルに問題があった」と語ったが、それ以上に照明の問題が大きかったように感じた。