プロ野球からは日本独特のトランペットや太鼓などを使った鳴り物入りの応援がなくなり、Jリーグではサポーターソングやチャントが消えた。拍手と若干の歓声やため息だけが場を支配しているのだ。だが、そこにあるのはネガティブな感情ばかりではない。大変に友好的で平和的な雰囲気が醸し出されているのだ。
なにしろ、ブーイングができないのである! できるのは「拍手」だけ。そして、拍手は“喝采”や“同感”を表せても、“敵意”を表すためには使えないのだ。
これがヨーロッパだったら、発声が禁止されてもたとえば「足を踏み鳴らす」などの行為によって相手チームに対する敵対感情を表そうとするだろう。だが、日本の観客は優しい。たとえば、対戦相手にいる古巣の選手に対しても、あるいは担架に乗せられて退場していく相手選手に対しても、今は温かい拍手が送られている。
そう、今の時期、「対戦相手」というのはけっして“敵”ではないのだ。対戦相手というのは、新型コロナウイルスという共通の敵に対して共に戦うことによって日本のスポーツ文化を守っていく“同志たち”なのだから……。