■「ベストな試合展開」とは
しかし、これだけ攻めながら2失点して結局1点差で前半を終えたのも現実だ。
柏の1点目はロングボールのこぼれに戸嶋祥郎がうまく合わせてボレーを決めたもので、これは戸嶋を褒めるしかないが、2失点目は札幌のCKから駒井善成の強烈なシュートがDFに当たって跳ね返ったボールが駒井に当たって柏の小屋松知哉の前に転がり、小屋松が独走して決めたもの。
ペトロヴィッチ監督自身が語ったように「1人DFを残しておけば防げたもの」だった(普通、CKの場合、足の速いDFを1人残しておくものだ。慎重な監督なら2人を残す)。
こういう試合展開を「ベスト」と捉えるのか否か……。
それは、まさにその人のサッカー観、サッカー哲学によるものとしか言いようがない。たとえば、「ウノゼロの美学」に則ってJ2リーグで首位を独走中のFC町田ゼルビアの黒田剛監督だったら(最近は2ゴール目を奪えるようになっているが)、どんなに素晴らしいゴールが決まったとしても「3対2の前半」は最悪の展開ということになるだろう。
だが、ペトロヴィッチ監督の場合は、もちろん守備の綻びを気にしたりはしない。2点を失ったことよりも、3点をゲットし、さらに大量点を奪えそうな攻撃を展開できたことを評価するのだ。
だからこそ、「ベストな45分間」という言葉が出てくるのである。
僕自身は、かつて長期間にわたってセリエA中継の解説の仕事をしていたこともあるし、野球でも撃ち合いよりも緊迫した投手戦を好むタイプなのだが、それでもこの柏対札幌の試合は見ていて興奮したし、本当に楽しかった。
結果として単に大量点が入っただけだったら、性格が悪い僕は「守備が崩壊しただけ」としか思わないのだが、素直に楽しめたのは札幌の攻撃の内容が素晴らしかったからだ。あんな攻撃的なサッカーを見た記憶はほとんどない。たとえ4失点しようが、あるいはもしも試合に敗れてしまったとしても、あの迫力ある攻撃を見せられたら満足するしかない。