みなさんはどう感じているだろう。Jリーグは以前よりも活気にあふれ、各段に面白くなっているのではないか。その理由を探るべく、サッカーに深い愛情をそそぐ湯浅健二さんに話を聞いた。浮嶋敏(湘南ベルマーレ)、手倉森誠(ベガルタ仙台)、アンジェ・ポステコグルー(横浜F・マリノス)、金明輝(サガン鳥栖)、長谷部茂利(アビスパ福岡)、片野坂知宏(大分トリニータ)、マッシモ・フィッカデンティ(名古屋グランパス)、鬼木達(川崎フロンターレ)、リカルド・ロドリゲス(浦和レッズ)ら、注目すべき監督への率直な評価に対話は弾んだ。深い洞察に基づく刺激あふれる賢者の言葉に耳を傾けよう――。
湯浅健二さんプロフィール
大学卒業後に西ドイツに渡り、サッカー指導者養成機関としては世界最高峰のケルン体育大学に入学。1977年に西ドイツサッカー協会のB級ライセンス、1979年にA級ライセンス、そして1981年にスペシャルライセンスを取得、同大学の専門課程を修了。1982年に読売サッカークラブのコーチに就任。1983年に読売クラブが契約した日本リーグ初の有名外国人監督であるルディ・グーテンドルフ(西ドイツ)のアシスタント・コーチを務めた。その後、一時ビジネスに転じていたが、Jリーグのスタートともにサッカーに復帰、たくさんの著書とともに、自身のホームページ上で独自の理論を展開している。
■コーチたちの仕事は選手に考えさせること
――戦術から選手たちをどう解放するのですか。
湯浅 最も大事なのは、攻守の目的をイメージさせることです。攻めの目的はシュートをすること。その前提としてスペースをいかに攻略するか。そして守備の目的はボールを奪い返すこと。攻撃がゴールにつながったり、守備がゴールを守ることになるけれど、それは結果にすぎません。選手たちがボールを奪い返したいときにどういうプレーをすればいいのか、それを選手たち自身が考えることが大事です。そのためには、選手たちの意識と意志、やる気、モチベーションが必要になります。それが「解放」です。コーチというのは、そこに集中しなければならない。それをバイスバイラーさんから教えられました。
――Jリーグでたとえると、どういうことでしょうか。
湯浅 たとえば横浜F・マリノス。アンジェ・ポステコグルー監督は、「おまえのポジションはここだから、ここにいろ」などとは選手たちに言っていないはずです。左サイドバックのティーラトンが守備的MFの位置にはいってきてプレーしていたりしますが、それは彼自身の判断によるものではないでしょうか。目的はボールを奪い返すこと、目的はスペースをついてシュートを打つこと。そのために、全員が守備にも攻撃にも関われるよう、自分たちで工夫したのではないでしょうか。
――ティーラトンが中にはいったら、外には誰かが出ている――。
湯浅 コーチにとって大事なのは、基本的なイメージング。選手たちが「こういうふうなサッカーをするんだな」というイメージをもてるようにすることです。たとえばサイドハーフとサイドバックだったら、サイドバックはサイドハーフの仕事をやりやすくする、サイドハーフはサイドバックがオーバーラップしやすくする。それだけでなく、「でも右サイドだけで動いていていいの?」と、選手たちに常に自問自答させることです。
――自発的なプレーでなければ、「楽しさ」には結びつきませんからね。
湯浅 イビチャ・オシムさんも、「選手たちに考えさせる」と言い続けていました。先日、ある人からこんな話を聞きました。「守備について、オシムさんは選手たちに『ゴールを取られるな』としか言わなかった」。どうやったらいいか、そんなことは自分で考えろということですね。選手たちに考えさせるのが、コーチの最も重要な仕事なんです。