■ウォーミングアップが再現された場面

 最後までピッチに残って繰り返し行っていたのは、左足でのクロスだ。低いクロスや高いクロスなど、いくつも蹴り分けて繰り返しペナルティエリアにボールを送り込んだ。中に合わせる人はいない。ただ、一人でクロスを送り続けた。

 この練習が、試合中に再現されたのが、前半10分の場面だった。川崎の右クロスが名古屋守備陣に跳ね返されるも、ボールは左に展開される。それを受け取ったのが、やはり左に流れていた家長だ。家長はボールを受け取ると、迷うことなく左足でゴール前にクロスを送り込む。ボールはきれいな弧を描いて、ダミアンの頭に合わされる。このヘディングシュートが、名古屋を突き離す待望の追加点になった。ピッチで最後まで続けたクロスの練習。家長には、この場面が見えていたのだろうか。

 その戦術眼がJリーグ屈指であることに、異論はない。この試合ではさらに、こんな場面もあった。旗手がペナルティエリア付近でボールを持った際、家長が裏に抜けるように縦に走り出した。そこで旗手は、その動きに合わせてボールを出す。非常に自然な流れに見える。しかし家長は、旗手にダメ出しをした。ジェスチャーがメインだったので推測の部分もあるが、“こっちじゃなくて、左に出してほしいから走ったんだ”といった内容だった。

 左でチャンスを作るために、右で縦に走る。そして、その意図を後輩にピッチで伝える。試合中に今までも何度も見たことのある光景だが、この大一番でもそれをやってみせるのが家長という男だ。川崎の強さは、こうして生み出される。

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