■浦和レッズが見せたエキサイティングな進化

 私は「スーパーストライカーはチームを堕落させる」と考えている。前回のこのコラムで釜本邦茂さんのことを書いたが、もし実際に彼のようなストライカーをもっていたら、えてして、監督はあまり頭を絞る必要がなくなる。とにかく他の選手たちでしっかり守り、「スーパーストライカー」にボールを預けてゴールを取ってもらえば、半ば自動的に勝利が転がり込んでくるからだ。スーパーストライカーがいないことで、全員が走り、コンビネーションを磨き、監督も選手たちも努力をしなければならなくなる。「サッカーの美しさ」は、そのなかにある。

 ミシャは、「シーズン20得点できるストライカー」がいないことで、コンビネーションを磨くことに集中することができた。そのコンビネーションは緻密そのものであり、まさに驚異だった。ミシャは毎日いろいろな新しいコンビネーションプレーを考えてはそれをトレーニングに落とし込み、チームを磨き上げていった。広島でも浦和でもそして札幌でも、それを続け、少しずつ積み上げた。

 浦和時代には、そのコンビネーションが年を追うごとに目に見えて高まった。シーズン途中で解任された2017年を除く2012年から2016年の5シーズン、浦和が55から58、62、72、そして74へと右肩上がりで毎年勝ち点を伸ばしていったのは、コンビネーションの精度の高まりとぴったりと一致する。

 2012年の前半には後ろのほうでパスばかり回しているというイメージだった浦和のサッカーは、次第に相手を圧倒するボールキープだけでなく、相手がどんなに守備組織を固め、スペースを消そうとしても、高精度のコンビネーションでそこにスペース(時間)を生み、タイミングを逃さず使い、突破してチャンスをつくるエキサイティングなものへと進化していった。相手がウイングバックにマークをつければ、その選手を内側に動かし、空いたスペースにDFのサイドの選手が張り出して長いサイドチェンジのパスを出すという崩しの形は、4年目の2015年あたりからスムーズになった。コンビネーションのトレーニングを繰り返すことで生まれた息をのむような攻撃。これこそ、ミシャが目指すサッカーだった。

※後編へ続く

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