■コンサドーレ札幌での新たな冒険
ミシャは前年の7月に浦和レッズの監督を解任されたが、この2018シーズンを前にコンサドーレ札幌と契約、新しい仕事を始めたばかりだった。札幌は前年J1に3回目の昇格を果たし、四方田修平監督の指揮下、11位という過去最高の成績を収めて初めての「J1残留」を勝ち取ったばかりだった。新しいチームを率いたミシャは、森保さんが私たちに声をかけた前日までに3試合を戦い、1分け2敗の未勝利。このシーズン4位に躍進して日本中を驚かせることになるサッカーに、選手たちはまだ確信をもてずにいた。その状況を、森保さんは気にかけていたのかもしれない。
私も湯浅さんも、思いがけない森保さんの言葉に驚いたが、すぐに「もちろんです!」と請け合った。ふたりともミシャのサッカーと、何よりもミシャ自身が大好きだったからだ。
この記事を書くのは、私にとって簡単ではない。なぜなら、私はミシャのことが好き過ぎるからだ。45年を超す長い取材生活で、彼ほどの独創的なアイデアをもつ監督に出会ったことはないし、それ以上に、彼ほど人間的魅力をもった監督に出会ったこともない。正直に書くが、2017年6月から7月にかけて浦和に極度の不成績が続いたとき、私は何日も眠れない夜が続いた。負けるたびに、ミシャが解任され、あの美しいサッカーが見られなくなるのではないかと恐れたからだ。まるで自分がミシャに恋をしているのではないかとさえ思ったほどだった。
また2016年のJリーグアワードでミシャが「最優秀監督賞」に選ばれなかったときには、関係がないのに、自分自身がひどく侮辱されたような気になった。たしかに「チャンピオンシップ」では鹿島に「アウェーゴール」で敗れて優勝することはできなかった。しかしJリーグ記録に並ぶ勝ち点74を挙げたチーム、何より誰をも感嘆させずにおかない魅力あふれるチームを、5年間という時間をかけてほぼ「無」の状態からつくり上げた監督が、なぜ「最優秀」ではないのか。「優勝監督賞」というならそれでいい。だが「最優秀」と銘打つからには、ミシャ以外に受賞者はいないはずではないか――。
監督の評価をする記事として、冷静に書かなければならないことは承知している。最大限その努力はする。しかし今回は、どうしてもミシャに「肩入れする」記事になってしまうことを、あらかじめお許し願いたい。