「賢者の贈り物」ミシャ・ペトロヴィッチ論(1)日本サッカー史に残る「ミシャ式」の衝撃の画像
ミシャ・ペトロヴィッチ監督 写真:アフロスポーツ

なぜサッカーは面白いのか。なぜサッカーは楽しいのか。そこに答えはない。理由を求めてはいけないのだろう。では、なぜサッカーが好きになったのか。彼のサッカーは面白く、そして楽しい。たとえ敗れても、次の試合を観たくなる。ペトロヴィッチ監督のあの美しいコンビネーション・サッカーを、もう一度見たくなる。そこには、なぜサッカーを好きなのか、その理由があふれている。

■驚くべき森保一のひと言

 人生には、ときおり小さな驚きが訪れる。それは2018年3月、午後4時キックオフのベルマーレ平塚対名古屋グランパスのキックオフをスタンドの記者席で待ちながら、仲間のジャーナリスト湯浅健二さんと話していたときのことだった。

 話しながら、目の片隅で、私は森保一さんが階段をのぼってくるのに気づいた。東京オリンピックを目指すU-21日本代表監督に就任してまだ数カ月。若い力が躍動する湘南には「東京オリンピック世代」の選手が何人もいたから、その視察かと思ったのだが、湯浅さんと私の姿を認めると、彼はわざわざ席の前までやってきた。そしていつもの律義な口調でこう言ったのだ。

「ミシャさんを、よろしくお願いします」

 ミハイロ・ペトロヴィッチ、1957年10月18日生まれ、当時60歳。この記事では、以後彼を「ミシャ」と呼ぶことにする。彼もそう呼ばれることを望み、周囲の者だけでなく、彼を少しでも知る人は誰もが親しみを込めて「ミシャ!」と呼びかけるからだ。

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