試合終了のホイッスルが鳴ると、ピッチ上に残酷なコントラストが描かれた。青いユニフォームが動きを止め、崩れ落ちた。
スペインは強かった。チームとしても個人としても、クオリティの高さを見せつけた。フル代表のレギュラーを含むチームは、U―24世代のレベルを越えていただろう。
だからこそ、0対1の敗戦が悔しい。スペインの決勝点は延長後半の115分だった。ここまで耐えたのは、称賛されていい。同時に、土壇場で試合を動かすスペインに、世界トップクラスのクオリティを見せつけられたとも言える。
グループリーグからサッカー批評Webで解説をしてきた、川崎フロンターレのレジェンドで元サッカー日本代表の中村憲剛さんは、この一戦をどのように見たのだろう。選手心理を読んだ客観的な視点に立ちつつも、ひとりの指導者としての熱い思いが込められた解説をお届けする。
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後半から延長戦にかけては、CBパウ・トーレスに1人がつく作戦はそのままに、遠藤航と田中碧がインサイドハーフをマンツーマン気味に見るようになっていました。真ん中を開けてはいけないという守備のセオリーからは外れることになりますが、インサイドハーフにボールを入れさせないように徹底しました。
そこには、CFのラファ・ミルがCBからのボールを積極的に引き出すタイプではなく、真ん中にパスを通されることはそこまで多くないだろう、という計算もあったと想像します。ラファ・ミルが疲労していったのかもしれませんが、遠藤と田中がインサイドハーフにフタをしてからは、守備がより安定しました。
スペインの選手交代にも助けられました。後半開始から入った右SBの選手を含めて、相手の右サイドは旗手怜央と中山雄太でうまくフタをすることができていました。パウ・トーレスとインサイドハーフの機能を低下させることで、スペインの右サイドにボールを意図的に誘導し、あらかじめ対応することができる守備戦術が機能したからだと思います。
ただ、そうするとスペインはひとつ飛ばしてきました。日本の機能していた守備の目線を変える策を取ってきたのです。
彼らが見せるパターンはこうです。
インサイドハーフやアンカーを使い、対角線上のCBに斜めのバックパスを入れて、日本をスペインの右サイドへスライドさせる。右CBのエリック・ガルシアが受けたとしたら、林大地がプレスにいく。そうすると、オヤルサバルがエリック・ガルシアの前に入り、左CBのパウ・トーレスへ斜めのバックパスを入れる。パウ・トーレスについているはずの林はエリック・ガルシアへプレスにいっているので、パウ・トーレスはその時点でフリーになっています。彼がフリーになると、どこにでもクサビを刺してきました。1番怖かったのは彼からペドリに入ることです。「一個飛ばし」と「クロスのパスコース」で、フリーの選手を作るのです。
パウ・トーレスがフリーになると、左SBのククレジャは高い位置を取れます。VARで取り消されたPKのシーンも、パウ・トーレスがダニ・オルモに縦パスを入れ、ダニ・オルモがワンタッチでペドリへ落とし、ペドリがククレジャへパスをつないだ。パウ・トーレスの縦パスで締めさせられているので、その時点でククレジャはフリーになっていたのです。