■メダルを獲ることは「次代を担う選手たちの日常を変えること」につながる

 振り返ってみると、あの1点を防げるかどうかがメダルの価値なのだと思います。ああいう場面を守れる歴史や経験を、国として積み重ねていけるかどうか。準々決勝までは抑えることができ、この試合でも抑えてきたから延長まで持ち込めたけれど、もうひとつ上へいくためにはああいう場面も含めて最後まで抑えないといけないのでしょう。

 僕自身はひとりの指導者として、「このスペインに勝つためには」という視点で観ていました。過去のW杯や五輪の戦いを通じて得た収穫と課題をフィードバックしながら、しっかりと強化を図り、積み上げてきて迎えた自国開催の東京五輪です。育成年代で多くの経験を積んだU―24世代で最高クラスの選手が集まり、彼らを心身ともに高いレベルで引っ張れるオーバーエイジが加わっても、技術と戦術でスペインに上回られ、差を見せつけられた。

“本気を出した本物”を見ると、日本もこのクラスとメダルを争う真剣勝負ができるところまで来たのだという感慨を抱くと同時に、世界トップレベルへの道のりはかくも長いものなのかと感じました。

 戦前の予想どおりに、スペインは自分たちを主語に、やるべきことをやってきました。彼らからボールを奪って勝つサッカーは、現時点では日本だけでなくどこの国も難しいのではないかと思います。握り合いで勝つのは無理かもしれないけれど、昨日のようにしっかりと準備し、リアルタイムで修正を施しながら、勝ち筋を見出していく。同時に、スペインを相手に握り合いで勝つ。どちらの戦いもできるように、そこを目ざさなければいけないとの想いが沸き上がっています。

 試合翌日のいまでも、いろいろな思いにとらわれます。それも、日本がここまで勝ち上がってくれたからこそですし、昨日のようなゲームを見せてくれたからです。森保一監督以下スタッフと選手たちは、本当に頑張ってくれていると思います。

 だからこそ、3位になってメダルを獲ることでここまでの頑張りや努力を形として残してほしいです。3位で終わるか、4位で終わるかではまったく意味合いが変わると思います。

 3位決定戦は戦術、技術の戦いももちろん重要でしょうが、それ以上に精神力の戦いになるのではと思います。決勝戦進出を阻まれた者同士の対決なので、喪失感はどちらにもある。その喪失感を中2日でどれだけリカバリーして、全員で本気でメダルに向かえるか。その気持ちの強さが、最後はモノを言うと思います。

 外から応援している僕の立場でも喪失感があるので、実際に中で戦っている彼らの喪失感は計り知れません。それでも、なんとか気持ちを奮い立たせて、ここまでのみんなの頑張りを形にしてもらいたい。そのチャンスがまだ残されていることを、選手たちには自覚してほしいのです。

 メキシコを下してメダルを獲ることで、テレビを通して今回の熱き戦いを観戦した子どもたち、学生たちが「次は自分が」という気持ちを強く抱くでしょう。次代を担う選手たちの、日常を変えることになるのです。

 ここでメダルを獲ることが、日本サッカーの未来を形作る。これからの日本を背負っていく世代のためにも、最後まで頑張ってほしいと思います。

 このチームが戦うのは、メキシコ戦が最後になります。ここまで日本を熱くさせてくれた彼らの最後の戦いを、みんなで心から応援しましょう。

(構成/戸塚啓)

なかむら・けんご  1980年10月31日東京都生まれ。中央大学を卒業後03年に川崎フロンターレに入団。以来18年間川崎一筋でプレーし「川崎のバンディエラ」の尊称で親しまれ、20年シーズンをもって現役を引退した。17年のリーグ初優勝に始まり、18年、20年に3度のリーグ優勝、さらに19年のJリーグYBCルヴァンカップ、20年の天皇杯優勝とチームとともに、その歴史に名を刻んだ。また8度のベストイレブン、JリーグMVP(16年)にも輝いた。現在は、育成年代への指導や解説活動等を通じて、サッカー界の発展に精力を注いでいる。

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