■選手たちの欲求が、日本サッカーを前に進める
――Jリーグのサッカーにとって「革命的な時代」と言えるでしょうか。
湯浅 「マズローの欲求5段階説」というのがあります。アメリカの心理学者アブラハム・マズローという人が唱えたものですが、彼は人間の欲求を5段階に分けました。第1段階は食欲や性欲など生理学的な欲求、それが実現されたら、第2段階は生活の安心安全、第3段階は愛情欲求や家族をつくるなど、仲間をつくる欲求、第4段階が社会的に承認される欲求です。そしてここまで実現されると、最後に出てくるのが第5段階の自己実現の欲求です。
――サッカーとの関係は?
湯浅 Jリーグの選手であれば、第4段階までは満たされているはずです。多くの少年があこがれるJリーグ選手になっているのですから。あとは自己実現しかありません。自己実現は主体的なもので、自分で考え、行動しなければなりません。コロナのおかげで多くのチームがそういうサッカーに舵を切った。選手たちが自覚をもちはじめ、主体的に考えてプレーするようになりつつある。だから今季のJリーグは見ていて楽しい。選手たちの自覚、自己実現への欲求が、日本サッカーの前進に寄与しているのではないかというのが、私のいまの考えです。
――選手たちの自己実現のためにも、監督(コーチ)の役割は大きいですね。
湯浅 残念なことに、私はゼップ・ヘルベルガーさん(西ドイツを1954年ワールドカップ優勝に導いた名将。デットマール・クラマー、ヘネス・バイスバイラー、ヘルムート・シェーン=1974年ワールドカップ優勝監督らの「師」としても知られている)にお目にかかれませんでした。しかしクラマーさんやバイスバイラーさんからよく話を聞きました。彼はたくさんの名言を残しましたが、最高の言葉はこれです。
「トレーニングが終わったときに、選手たちが笑いながら、疲労でぶっ倒れるようなら、最高のトレーニングだったということになる」
――きょうは素晴らしい話をありがとうございました。
(湯浅健二さんのHP:http://www.yuasakenji-soccer.com/)