■百花繚乱のPKテクニック
浦項戦のPKも、本来なら得点を認めるべきではなかった。佐藤がける前に、槙野はすでにスタートしてアークの内側(ボールから9.15メートル)以内に走り込んでおり、佐藤のPKはゴールにはいらなかったのだから、槙野がアークの内側にはいった地点から浦項の間接FKになるべき場面だった。だがこうした「トリック」は、VARがすべての状況をしっかり監視している状況では非常に使いにくいはずだ。必然的に、「工夫」は、キッカー個人のものとなる。
私は、高校時代に「必殺PK」を考案した。まず自信のなさそうな顔をする。そしてボールをセットし、助走のために下がると、思い詰めたようにゴールの右端を見つめる。右ばかり見ていると、GKは「そっちばかり見ていて、本当は逆じゃないの?」と疑念を抱く。そして私は、助走にかかる直前に、一瞬(と言ってもGKにわかる程度に明白に)ゴールの左端に目をやる。GKはこれで「左だ」と確信する。そしてそちらにジャンプする。しかし私は右端に転がし込むのである。実戦で使った回数はそう多くはなかったが、いちども失敗しなかった。
日本代表の遠藤保仁の「コロコロPK」が国際的に話題になった時期があった。遠藤はボールを見ずに、GKだけを見てける。GKを見ながらゆっくりボールに近づき、GKが「こっちだ」と跳んだ瞬間にその逆にゆるいキックでコロコロとボールを流し込むのである。遠藤はJ1の「PK記録保持者」で、35本のPKをけり、31回成功している。成功率88.6%。まさに「PKマスター」である。
最近では、助走してきて最後のステップの手前で「間」をつくり、GKが跳んだ逆にけるキッカーが多い。浦和レッズの興梠慎三が得意としている。ルールではキッカーはフェイントをかけてはいけないことになっているが、それは「助走を完了した後」とされている。1ステップ手前はまだ「助走中」なので、このキックはルール違反ではない。