■おじけづいた「鉄の男」マテウス
さて、PKとは、「退場(レッドカード)」と並び、サッカーにおける最も厳しい罰である。ペナルティーエリア内で守備側が直接FKになる反則を犯すと、攻撃側に与えられる。キッカーはゴール正面、ゴールの中央から11メートルのところにつけられたマーク(ペナルティーマーク)の上にボールを置き、GKだけが守るゴールに向かってける。GKはボールがけられるまで少なくとも片足の一部はゴールライン上になければならない。成功率は8割と言われている。ちなみに、1993年以来のJリーグ(J1~J3)の総試合数1万7788試合におけるPKの総数は3594で、そのうちゴールになったのは2853回。79.4%。「通説」は正しかったわけだ。
だが、3本打って1本はいれば大成功と言われる通常のシュートと違い、10本ければ8本はいるというPKをけるのは、キッカーに緊張を強いる。
1990年のワールドカップ決勝、西ドイツ対アルゼンチンで、0-0で迎えた試合の終盤に西ドイツにPKが与えられた。西ドイツの通常のPKキッカーは、「鉄の男」と言われた闘将ローター・マテウス。強烈なリーダーシップは、強靱な精神力に裏打ちされたものであり、監督フランツ・ベッケンバウアーも絶大な信頼を置いていた。ところが、この重大な場面で、マテウスがおびえたのである。「けりたくない。誰かけってくれ」と、チームメートに懇願したのだ。仕方なくアンドレアス・ブレーメがPKスポットに立ち、ゴールの左隅に決めて西ドイツに3回目の優勝をもたらした。