■FIFAへの提案
最後に、テクニカルエリアについて、長年感じてきたことを書きたい。「タッチラインから1メートル」では近すぎるということだ。ピッチに向かって左側のベンチ(通常はホームチームが使用)前のテクニカルエリアならいい。しかし右側のベンチ前のタッチラインには、副審が走る。タッチラインから1メートルのところに監督が立っていたら、ぶつかりそうになるし、副審が上げる旗が監督に当たることも十分考えられる(実際に当たったのを見た記憶はないが……)。
さらに、「コロナ禍」で試合中の給水の方法も変わったが、その前には、テクカルエリアに給水用のボトルがずらりと並べられていた。たとえばプレーがタッチラインに近づいてきたとき、副審は選手たちのじゃまにならないよう、無意識に外にバックステップする。そこにボトルがあったら、ケガにつながる恐れがある。
テクニカルエリアは、タッチラインから少なくとも1.5メートル離すべきだ。私は、自分のチームがホームゲームのためにグラウンドの設営をするときには、1.5メートル離すようにしている。相手チーム監督には「副審を守るために1.5メートルにしてあります」と断り、了承を得る。異論を唱えた監督はいない。試合を見たり、指示を与えるのに、この0.5メートルの差は何の影響もないからだ。しかし副審には大きく安心を与える「違い」になるはずだ。
さて、冒頭の「You are the Ref」の問題、FKをけろうとしている選手のじゃまになる監督が動こうとしないのに対し、主審はどう対処すべきだろうか。読者の設問に対し、イングランドでいくつもの決勝戦の主審を担当し、国際審判員としても10年間活動したキース・ハケット氏の回答は非常に手厳しい。
「テクニカルエリアは監督の領土ではない。注意しても責任ある態度をとらないなら、退席処分にするべきだ」
そう、2016年のルール大幅書き変え時に第1条(競技のフィールド)に移された「テクニカルエリア」の規定では、「責任ある態度で行動しなければならない」と、明確に書かれている。抽象的な言葉だが、とても重い文言であると、私は思っている。