■衝撃のテクニカルエリア・ライン

 ちなみに、この年横浜FMを率いていたのは木村和司監督である。もしストイコビッチ監督が何のおとがめなく終わっていたら、「サッカー小僧」木村監督としては対抗意識を燃やさないわけがなく、彼のメンタリティーを考えれば、試合終了までにチャンスを見つけて自分もゴールにけり込んだことだろう。

 しかし廣瀬主審は厳格だった。いらだちまぎれにボールをけるのは、監督として節度ある態度とは言えないと感じたのだろう。第4審判の山口博司氏と話し、ストイコビッチ監督を退席処分にした。私は、笑って済ませてもいいケースではないかと思ったが、ボールは、倒れた田中の様子を見ようと背を向けていた廣瀬主審や選手たちの頭上を通過した。「危険な行為」ととることもできた。試合はこの後、ペナルティーエリア手前、ゴール正面にこぼれてきたボールを横浜FMの狩野健太が左足で叩き込み、横浜FMが2-1で勝利をつかんだ。

 そして私が見た最も衝撃的な「テクニカルエリア・ライン」は、2018年からルヴァンカップ決勝戦で登場した「大会名入りライン」だ。通常は白い破線で描かれているテクニカルエリアのラインの上に、高さ30センチほどだろうか、長さ2メートルほどの三角柱を倒したものが並べられ、そこには赤い大会ロゴが書かれている。「大会ロゴ」と言っても、「冠大会」だから、実質的に広告である。誰が考えたのだろうか。ことし1月4日のルヴァンカップ決勝でも使われていたが、これもペトロヴィッチ監督のパイプ椅子と同様、ルール上は本来許されないのではないだろうか。

 Jリーグの規定では、広告看板はタッチラインやゴールラインから5メートル以上離して設置しなければならない。選手の安全を守るためだ。しかしテクニカルエリアはタッチラインから1メートル。ルヴァンカップ決勝のテクニカルエリア・ラインは、おそらく軟らかい素材でできており、選手を傷つける恐れはないのだろうが、ルール上認められるものなのだろうか。

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