■パイプ椅子に座ったのはミシャ監督だけ

 じっと試合を見ている人(長谷川健太タイプ)、叫び続けている人(城福浩タイプ)、大きなジェスチャーを交えて、まるで選手たちといっしょに戦っているような人(片野坂知宏タイプ)。テクニカルエリアにはさまざまな「監督模様」があり、それが監督としての「哲学」と密接に結びついているようにさえ見える。ミスだらけでつまらない試合のときには、テクニカルエリアを見ているほうがよっぽど面白いと感じることさえある。

 テクニカルエリアは、ときどき、「檻」のように思えてくる。監督たちは、まるで動物園の熊のように、象のように、試合中、その中でうろついている。ときどき気持ちが余ってエリアの白線から出てしまうと、すぐに「係員」が飛んできて「檻」に戻るように命じる。すると、監督たちは「悪い、悪い」というしぐさを見せ、素直に「檻」に戻っていく。

 私の大好きなコンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、腰に持病をかかえ、ときどき歩行が困難なことがあるのに、いつもテクニカルエリアのいちばん前(かなり頻繁にその外)に立っている。彼が浦和レッズにいた時代、状態がとても悪かったときには選手たちが赤い2本のストックをプレゼントし、その姿でテクニカルエリアに立ち続けた。ときどき右手を上げようとしてストックごと上げてしまい、やや危険な感じがしたこともあったが……。

 アウェーゲームでは、ホームクラブが彼のためにパイプ椅子を用意してくれ、そこに座ったまま指示をしていることもあった。おそらくこんなことはルールで認められていないはずだが、ホームのスタッフが気づかい、主審の許可をとってくれたのだろう。主審もそれを許可するところが、ペトロヴィッチ監督の「人徳」なのかもしれない。

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