■こうして第4審判は疲れ果てた
1993年にこの規定ができたとき、「ただ1人の役員のみが、戦術的指示を与えることができるが、指示を与えた後は直ちに所定の座席に戻らなければならない」とされていた。これが新たな「熱い戦い」開戦の号砲となった。
「熱い戦い」を始めたのは、監督たちと第4審判たちだ。監督たちは、指示を与えた後もベンチに戻らず、戦況を見守っている。第4審判としては、ベンチにいる両チームの役員や控え選手が適切な行動をとっているかを見るのも重要な任務だから、そうした監督を見ると、自分の席から立っていって注意を与えなければならない。実は、1993年に「テクニカルエリア」が明文化されたとき、同時に明文化された新しい役割の審判員があった。それが「第4審判員」だった。この「二卵性双生児」は、誕生のときから「熱い戦い」をする宿命だったのだ。
「戻ってください」と注意する第4審判。「うるさい!」とばかりに、怒鳴り返す監督たち。目に余るときには、第4審判は主審を呼んで状況を伝えなければならない。当時は監督へのイエローカードやレッドカードはなかったから、主審は厳しく注意を与える。そしてそれが繰り返されれば、「退席」となる。第4審判員には、ピッチ上の3人の審判員をサポートし、彼らが見ることのできない事象を見て主審にアドバイスするという重要な役割があったのだが、「テクニカルエリア対策」に忙殺されることになる。
この戦いが終結を見たのは2009年のことだった。ルール改正により、「指示を与えた後、所定の位置に戻らなければならない」という文言が削除されたのだ。これによって、監督たちはずっとテクニカルエリアの最前方に立ったままで試合を見守ることができるようになった。