■長いキャリアから得た確信
2013年の浦和レッズの「オフィシャル・イヤーブック」のなかで、彼はこんなことを書いている。
「サッカーの世界で長く仕事をしてきて、ものごとを良い方向に動かせるのは『チーム』だけだという確信をもつに至りました。『きょうも練習ができる』『きょうもサッカーができる』という喜び、楽しみをもって選手たちが毎日練習にくる。笑顔があって、みんなと会えて楽しい――。そうした明るいチームの雰囲気が、コーチングスタッフ、メディカルスタッフ、マネージングチームに伝わり、ポジティブな雰囲気がチームにも戻ってくるのです」
祖国を失った彼にとって、「チーム」こそがそれに代わるものなのかもしれない。そして彼にとっての「チーム」は、プロ選手やコーチングスタッフだけでなく、クラブのスタッフやクラブハウスの世話をする人、そしてトレーニングピッチの芝生の管理者まで、とても広い概念になっている。そうした人びとへの感謝を忘れず、ことあるごとに表現するのも、彼の人間的魅力の大きな側面だ。
浦和時代、シーズン最初のトレーニングに先だって、彼は必ずと言っていいほどサポートスタッフに目を向けるべきだと選手たちに話した。
「大原のトレーニンググラウンドの芝生をいつも完璧な状態に保ってくれているグリーンキーパーの2人、そして君たちのウェアを洗濯してくれているおばちゃんたちがいなければ、君たちはプレーできないということをいつも考えてほしい」