「賢者の贈り物」ミシャ・ペトロヴィッチ論(2)「ものごとを良い方向に動かせるのは『チーム』だけだ」の画像
ミシャ・ペトロヴィッチ監督 写真:アフロスポーツ

※前編はこちらから

なぜサッカーは面白いのか。なぜサッカーは楽しいのか。そこに答えはない。理由を求めてはいけないのだろう。では、なぜサッカーが好きになったのか。彼のサッカーは面白く、そして楽しい。たとえ敗れても、次の試合を観たくなる。ペトロヴィッチ監督のあの美しいコンビネーション・サッカーを、もう一度見たくなる。そこには、なぜサッカーを好きなのか、その理由があふれている。

■ピッチの外での最高のコンビネーション

 今季のJリーグは、新型コロナウイルスの影響で大変なスケジュールになっている。中3日、中2日の試合も当たり前。浦和時代、こうした「過密日程」になると、ミシャのチームの成績は目に見えて落ちた。彼はこんな話をしている。

「過密日程でも、選手のコンディションはなんとか保つことができる。問題なのは、われわれのサッカーではコンビネーションが命なので、トレーニングする時間がないとコンビネーションの精度が落ちていくことだ。中2日だと、試合の翌日はリカバリーにあて、その次の日は、もうアウェーゲームに向けてへの移動。これでは、高いレベルのコンビネーションを保つことはできない」

「FW、MF、DFといった概念を壊す、4-4-2とか3-5-2とかの数字の意味もない、1970年代にヨハン・クライフがやったトータルフットボールを目指している」と語ったミシャだが、その一方で「サッカーに魔法はない。中長期的なプランをもって、ひとつひとつ積み上げていかなければならない」と語っている。

 ミシャが先導し、広島時代から浦和時代を通じて最高のコンビネーションサッカーとしてJリーグ全体にも影響を与えたサッカーは、アマチュアレベルにまで影響を与えた。テンポよくパスをつなぐサッカー、そして何よりも、最後の突破のところで息の合ったコンビネーションを使うサッカーは、日本人に適したサッカーだったからだ。イビチャ・オシムさんも同じようなサッカーを目指し、日本代表という影響力の強いチームを率いることによって日本のサッカーの発展に大きく寄与したが、サッカーの神様は、彼にあまりに短い時間しか与えなかった。ミシャは15シーズンという長きにわたって影響を与え続け、師でもあるオシムさんに負けないほど、日本のサッカーの成長を助けてきた。

 さらには、森保一(日本代表監督)、横内昭展(U-23日本代表コーチ)、片野坂知宏大分トリニータ監督)などミシャの下でコーチを務め、大きな影響を受けて、現在の仕事に「ミシャ精神」を生かしている指導者も少なくない。ミシャはどのチームでもコーチ陣との信頼関係が深く、浦和と札幌では、最初の年に組んだコーチングスタッフをまったく崩さずに仕事を続けてきている。冒頭に挙げた森保さんのエピソードでわかるように、誰もがミシャを慕い、彼のような指導者になりたいと努力を重ねている。ミシャは、選手を育て、チームを育てるだけでなく、指導者たちも育ててきたのだ。

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