■朴一圭(横浜F・マリノス)たちの革命
イギータの夢を引き継いだのが、メキシコのホルヘ・カンポスだった。身長175センチ。GKとしてはとんでもなく小柄だったが、並外れたバネと運動能力の持ち主だった。プロとしての得点数は36。ただし、GKとしての得点ではない。
プロ2年目の1989年、23歳のカンポスはGKのポジションを取れないことに苛立ち、FWとして使ってくれるよう監督に懇願した。そのシーズン、彼は40試合に出場して14ゴールを記録、メキシコ・リーグの得点王争いに加わるとともに、北中米カリブ海のチャンピオンズカップでも10試合で7得点を記録、所属クラブのプーマスUNAMを王座に導いた。GKのポジションを得てからもペナルティーエリアを出てドリブルするなどのプレースタイルは続き、驚くことにメキシコ代表でFWとしてプレーしたことまであった。
ここ数年、JリーグのGKたちのプレーは大きな変わり目にあるように感じる。大胆にペナルティーエリアを出て最終ラインでの「組み立て」に参加する選手が目に見えて増えているのだ。その代表が昨年のJリーグで横浜F・マリノスの優勝の重要な要素となった朴一圭である。彼とともに、このスタイルの「先駆者」とも言うべき飯倉大樹(ヴィッセル神戸)、ロングパスに威力を見せる高木駿(大分トリニータ)などの選手が新しい時代を切り開き、こうした技術と戦術眼をもったGKを起用するチームが増え始めている。
GKが組み立てに加わるということは、前線で動く選手を1人増やせることを意味しており、攻撃の厚みをつくることにつながる。それこそ、GKに先進的なプレーを求める監督たちの目指すところだ。パスをさばいてから上がっていって得点するところまではいかないかもしれない。しかし他の選手たちとまったく違う色のユニホームを着ていても、彼らにはもう「疎外感」などないだろう。GKたちはすでに「夢」を実現しつつある。