■かつてはペナルティーエリアも、GKも存在しなかった

 GKとはいったい何だろう。「ゴールを守る人」「サッカーで唯一手を使える人」「同じチームのなかでひとりだけ違う色のユニホームを着ている人」などの答えが返ってきそうだが、サッカーが誕生したころにはGKはいなかった。サッカーとルール上のたもとを分かつことで成立したラグビーにGKがいないことを考えれば容易に想像がつく。

 実は、サッカーの最初のルール(1863年)では、誰でも自陣ゴールに向かって大きくけられたボールを手でキャッチすることが許されていたのである(「フェアキャッチ」と呼ばれていた)。ルールで特定の選手をGKとすることが決められたのは1871年。だが当初は、GKは自陣全面で手を使うことができた。

 このころのGKはとても活発だったらしい。何しろハーフラインのすぐ手前まで出てボールをキャッチできるのだ。そこからそのままドリブルで進んで攻撃に参加することも可能だった。ハーフラインを越えればキック力のある選手なら直接ゴールを狙うこともできる。実際、1910年には、対戦した両チームのGKが得点したという記録も残されている。

 「ペナルティーエリア」という「檻」のようなものがつくられ、GKがもっぱら動物園の猛獣のようにそのなかでうろうろするようになるのは、1912年以後のことである。「GKは攻撃の第一歩」などとおだてられても、攻撃中は蚊帳の外。多くのGKが、自分の役割に強烈な自負と誇りを感じつつ、心のどこかに疎外感をもち、自由に走り回るフィールドプレーヤーたちをあこがれの目で見てきたのは間違いない。

 「GKはサッカー選手ではないのか」

 そんな思いまで感じたGKも多いのではないか。服装から違う。かつてのイングランドでは、GKはシャツだけは別の色で、パンツとソックスは他のフィールドプレーヤーと同じだった。だがいまは世界中でGKは上から下までフィールドプレーヤーと違う色を着ている。

 1994年のルール改正で、それまで公式戦では「2人まで」とされてきた選手交代が3人に増やされた。ただしその3人目はGKに限られた。ここに至って、「GKはサッカー選手ではない」という「常識」がルールでも認められたわけである。ルールを決める国際サッカー評議会(IFAB)はその間違いにすぐに気づき、わずか1年でポジションを問わずに3人目の交代を認める改正が行われたのだが……。

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