日本が準決勝に進出した。7月31日の準々決勝で、ニュージーランドをPKの末に下した。0対0のまま突入した“11メートルの心理戦”で、日本のGK谷晃生が勝利につながるセーブを見せた。
苦戦の要因はひとつではないだろう。ニュージーランドが戦術的に洗練されたチームだったことも、結末までの時間を長くした。
川崎フロンターレをJリーグのトップクラブへ押し上げ、日本代表としてW杯のピッチに立った中村憲剛氏は、この試合をどのように見たのだろう。好評連載の第4弾も、さすがの着眼点でゲームの真相を解き明かしてくれた。サッカー批評Webでは、東京五輪の日本代表の全試合を中村さんの解説でお届けする。
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苦しみました。追い詰められました。
だからこそ、ここで勝ち上がったことは大きい。
4試合で大会を終えるのと、あと2試合できるのでは、まったく違います。メダルを賭けた試合ができるのは、実際に戦っている選手たちはもちろん、日本サッカー界全体にとっても価値ある経験になります。そういう意味でも、昨日の勝利は大きな分岐点になりましたね。
PK戦までもつれたニュージーランドとの準々決勝を振り返るにあたり、僕がまず初めにポイントとして考えたのはキックオフ時間でした。中2日で20時、20時、20時半開始の試合を消化してきて、この日は初めて18時のキックオフでした。現役当時の経験から言えば、この2時間の違いは見逃せません。
起床から食事、ミーティングや会場入りなど、すべてのサイクルが2時間前倒しになる。20時から20時半への変更なら微調整で済みますが、2時間は小さくない変化です。
キックオフ時の温度や湿度も、2時間違うと多少変わってきます。もちろん、気にし過ぎだという声もあるでしょうし、それは関係ないという選手のほうが多いかもしれませんが、決定的な要因とまでは言わなくても、多少なりとも試合に影響をしたのではないかと思いました。「いつもどおり」な感じを受けなかった要因のひとつとして。
フランス戦後の原稿で、「ニュージーランド戦は、ひょっとすると一番危険かもしれない」と書きました。ひとつ山を越えた日本のメンタリティと、相手との力関係を考えると、難しい戦いになる可能性があると考えたのですが、試合後の吉田麻也が「普通にやれば勝てるという雰囲気を危惧していた」と話したのは印象的でした。
彼も、彼以外の選手も、決して気を緩めてはいなかったでしょう。それはピッチ上からも感じられました。ただ、準々決勝の相手がブラジルやスペインなら、この種類の危惧はそもそも抱かない。そして、口にしているということは、「普通にやれば勝てる」という思いが、僕含めて大勢の方に深層心理としてあったのでは。他でもない僕も、「普通にやれば勝てる」と思っていたから書いたわけで、彼らを責めることはできません。