■プレスに行けないときはあえて日本のSBにボールを持たせてきた
システムの構造上空きがちな日本の両SBの橋岡大樹と旗手怜央に対しても、ウイングバックが縦ズレをして、3バックの左右のCBと連携して挟み込むシーンがありました。そういうハメかたをしつつ、中ではしっかりやらせないことを徹底していました。守備ブロックの真ん中へ入り込んで得意のコンビネーションを発揮したい日本の狙いを、阻害してきたのです。
グループリーグの第3戦で対戦したフランスも、ダブルボランチの遠藤航と田中碧を警戒してきました。ニュージーランドの警戒レベルはさらに高く、自分たちのポジションを多少捨てでも彼らにマンツーマンでついてきました。
そうなると、マイボールの局面で時間を持てるのは、必然的に両SBになります。前述したようなハメかたをされることもありましたが、ダブルボランチとふたりのCBよりはボールを持つ時間があったと思います。SBにボールをもたせる──実はそれこそが、ニュージーランドの目的だったのです。
SBがうまく敵陣へ入っていかないと、日本は数的優位を作れません。ここまでの3試合は相手システムの構造的にSBにもプレスがきて、酒井宏樹や中山雄太が周りと連動してそれを剥がすことで前進し、相手の守備陣を人数的に薄めることができていました。
ニュージーランドはSBへプレスにいけるときには、連動していっていました。一方、プレスにいけないときはSBにあえてボールを持たせて時間をかけさせ、SBがパスを出す先を警戒する形に変えていました。橋岡と旗手のプレーの選択肢を限定しつつ、流れやリズムを作れる中央の選手やスペースに穴を開けないようにしていったのです。
日本もそれを逆手に取り、ニュージーランドのマンツーマンをダブルボランチが剥がす場面もありました。前半9分、遠藤が自陣からドリブルで持ち運び、堂安律が際どいシュートを放った。直後の右ショートコーナーでは、大外でフリーになった遠藤が決定的なシュートシーンを迎えました。遠藤は34分に相手ゴール前へ出ていき、相馬とのワンツーを成立させて堂安のシュートをお膳立てした。
日本も相手の対策を上回ってチャンスは作っていましたが、ここ前3試合ほどの連動感や躍動感は見られなかった。こういった場面で先制できていれば、相手のプランも変わり、これまでと同じ試合展開になったかもしれません。逆に言えば、ここまでの3試合はそういうところで得点をしたことで、流れを持ってくることに成功していた。当たり前のことですが、チャンスを生かして得点を取ることは大事です。
(構成/戸塚啓)
なかむら・けんご 1980年10月31日東京都生まれ。中央大学を卒業後03年に川崎フロンターレに入団。以来18年間川崎一筋でプレーし「川崎のバンディエラ」の尊称で親しまれ、20年シーズンをもって現役を引退した。17年のリーグ初優勝に始まり、18年、20年に3度のリーグ優勝、さらに19年のJリーグYBCルヴァンカップ、20年の天皇杯優勝とチームとともに、その歴史に名を刻んだ。また8度のベストイレブン、JリーグMVP(16年)にも輝いた。現在は、育成年代への指導や解説活動等を通じて、サッカー界の発展に精力を注いでいる。