佐藤寿人論(3)サッカー史上でも稀有な「芸術品」だったの画像
2016年に当時J1史上最多の通算158ゴールを達成した佐藤寿人 写真:松岡健三郎/アフロ

※第2回はこちらより

エレガントな、ひたすらにエレガントで完成度の高いゴールに出会いたいのなら、佐藤寿人のプレーを見ればいい。しかし彼は、昨シーズンいっぱいでの現役引退を表明した。もう見ることはできない——。だから思いだそう、世界でもまれなストライカーがJリーグでプレーしていたことを。

■世界中で語り継がれるビューティフルゴール

 2014年3月8日のJリーグ第2節、川崎フロンターレを迎えたホームゲームで、寿人は永く語り継がれる美しいゴールを決めた。

 0−1で迎えた後半の12分、攻め込んだ広島がいちど中盤にボールを戻した。寿人が中央に立ち、広島は「シャドー」の石原直樹が左からその背後のスペースに向かって走る。だがペナルティーエリアには5人の川崎選手。簡単にチャンスが生まれるような状況には見えなかった。ボールをもった青山が、ゴールを背に下がってきた寿人の足元にグラウンダーの強いパスを出す。寿人は左足でボールをコントロールするが、そのボールは1メートル以上浮いてしまう。その瞬間、川崎のDFたちの足が止まる。ボールがグラウンドに落ち、寿人がコントロールするところを詰めよう——。そんな感じだった。

 だがボールを浮かせたのは寿人の狙いだった。左足からボールが浮いた瞬間にすばやく、相手が気づかないほど小さく、寿人は左足、右足とステップを踏んだ。そして右足を軸に体を倒して左足を振り上げ、ボールがほとんど最高点にあるところでとらえた。ボールは美しい孤を描き、川崎ゴールの左上隅に吸い込まれた。川崎GK西部洋平はただ見送るだけだった。

 この動画は、いまもYouTubeなどで見ることができる。ゴールが決まった直後に森保監督が映るのだが、その笑顔、「寿人、すごいな!」という表情が、歴史に残るビューティフルゴールのすべてを表している。このゴールは、その年のFIFA年間最優秀ゴール賞(プスカシュ賞)の最終候補10ゴールのひとつに選ばれている。

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