■スペース、そして足元へのパスを自在にコントロール

 中村憲剛という選手の特徴は、まず遠くのスペースを見通す、その“眼”にある。

 狭いスペースの中でもパスをつなぐ能力が高い川崎の各プレーヤー。どうしても「つなぐこと」に意識が集中してしまうのだが、そんな時にも憲剛はいつも遠くのスペースを見ており、1本のパスでスペースをえぐることができるのだ。これによって、川崎の攻撃には“深さ”が加わる。

 パスのうまい選手には、味方の選手の動きがよく見えるタイプの選手と、相手陣内にできたスペースを見つけるタイプの選手がいるように思える。後者の選手はスペースに1本のパスを通すことで局面を一気に転換する。中村憲剛という選手は、基本的にはこのタイプの選手だと、僕は思う。

 だが、同時に敵、味方の選手の動きを的確に把握していることも間違いない。そのことは、パスのスピードを自在にコントロールしているところに表れている。味方にとっては受けやすく、次のプレーにつなぎやすいスピードのパス。相手にとってはカットに動けないようなスピードのパスを選択して使い分けていることが分かる。

 清水戦でも、確実に味方の足元に付けるパスが何本かあった。相手にはカットしづらいが、味方はコントロールが容易なパスである。

 一方でスピードが大事なパスもある。清水戦でいえば、時計の針が90分を指そうとしていた瞬間に左サイドで裏に抜けようとしていた三笘を狙ったパスがそうだった。このパスは清水勇太主審に当たってドロップボールとなってしまったのだが、三笘がスピードアップしようとしていた瞬間のパスだったので、パスを受けてドリブルに移る際にスローダウンしなくてもいいような、スピードのあるパスを憲剛は選択したのである。

 三笘は、緩いパスを受けてもドリブルしながら自らスピードを上げていける選手だが、望ましいのは三笘が走る速さとパスのスピードがぴたりと合うことだ。それを、憲剛はきちんと計算していたのだ。

※後編へ続く

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