ついに、待ちに待った川崎のバンディエラの帰還が実現した。途中出場した清水エスパルス戦での中村憲剛のファーストタッチは、10連勝しても見えてこなかった、川崎フロンターレのタイトル奪還への視界が大きく開けた瞬間だった。新旧王者が激突する、来る9月5日の神奈川ダービーの横浜F・マリノス戦は、2020年J1リーグの天下分け目の天王山となりそうだ。後藤健生が見た中村憲剛の“帰還”とはーー。
■千両役者の帰還に完全なお膳立て
後半32分、正確に言うと時計の針が31分20秒を回ったところだった。中村憲剛がピッチに戻ってきたその瞬間、僕も思わず記者席から拍手を送ってしまった。僕にとっても中村憲剛は大好きな選手の一人だからである。
8月最後の週末のJ1リーグ第13節、清水エスパルス戦でのことである。
前十字靱帯損傷という大ケガで長期離脱していた中村憲剛が、この日2得点を決めていた旗手怜央に代わって登場したのである。4798人のサポーターからも、もちろん大きな拍手が起こった。
川崎にとっては、Jリーグ新記録となる同一シーズン内での10連勝を達成した後、名古屋グランパスに敗れ、ヴィッセル神戸と引き分けと2試合続けて勝利に見放された後の大事な試合だった。だが、鬼木達監督は、清水戦で大幅なターンオーバーを決意。小林悠も三笘薫も、大島僚太も田中碧もベンチスタートだった。DF陣の中心だった谷口彰悟もベンチスタートで、CBには車屋紳太郎と山村和也が入っている。
それでも、前半の立ち上がりから川崎は完全にゲームを支配した。
川崎の高い位置からのプレッシャーを前に清水は川崎陣内までボールを運ぶことすらできなかったのだ。そして、21分にはゴール前でのプレッシャーによって相手DFが出した苦し紛れのパスを下田北斗が拾って旗手が先制。その後も決定機が何度もあったものの相手GK大久保択生の好守もあって追加点を奪えなかったが、後半に入ると51分にレアンドロ・ダミアンが決め、さらに74分にも相手のスローインのボールを交代で入ったばかりの三笘が奪ったところからつないで、最後は再び旗手が決めて3対0と勝利を確定した。
清水の選手たちは、川崎の猛攻を前に足が止まっており、鬼木監督としては安心して中村憲剛をピッチに送り出せたことだろう。この状態なら、久しぶりの実戦となる憲剛にとっても負担は軽くて済む。つまり“慣らし運転”には絶好のシチュエーションだったわけである。