■他のプレーヤーとまったく違う!

 前十字靱帯損傷という大きな故障。そして、もうすぐ40歳を迎えるという年齢を考えても、「中村憲剛は復帰できるのか?」と本当に心配せざるを得なかった。

 この日の試合前のウォーミングアップの時にも溌溂とした動きを見せており、状態は良さそうで、「今日はピッチに立つ姿を見られるのだろう」と期待はしていた。しかし、「試合勘がどこまで戻っているのか」という不安もあった。

 しかし、そんな心配はすべてがまったくの杞憂だったようだ。

 中村はピッチに入ってからわずか15秒後には正面やや左サイドから鋭いシュートを放った(これは味方に当たってしまう)。79分には左タッチライン沿いでサイドバックの登里享平からのパスをワンタッチで三笘につないで、“らしさ”をアピールすると、80分には右サイドで自らが起点となってジオゴ・マテウス、大島とワンタッチでつなげ、最後は自らシュート。パスにシュートにとボールに絡み、アッという間に自らのプレーでリズムを手繰り寄せてしまった。

 そして、ピッチに戻ってきてから10分も経たないうちになんとゴールまで決めてしまったのだ。相手DFの中途半端なパスを狙って、ワンタッチでGKの頭を越す鮮やかなループシュートだった。

 こうして、ピッチに降り立った憲剛は各所で躍動し、他のプレーヤーとの違いを見せつけた。

 僕は『サッカー批評』のコラム「後藤健生の『J1リーグ中間報告』(2)」(7月28日掲載)の中で川崎フロンターレの強さに言及した際に、「今の川崎にとっては中村憲剛の不在も大きなマイナスとはなっていない。何しろ、今ではどの選手でも中村憲剛ばりのロングボールを駆使できるようになっているのだ」と書いた。

 これまではショートパスをつなぐイメージが強かった川崎だが、今シーズンはパス・スピードが一段と上がっただけでなく、遠くのスペースを使うためにどの選手も長いパスを使えるようになっている。だから「従来のように長いパスは中村憲剛の専売特許ではなくなっているのだ」と言いたかったのだ。まるで、「中村憲剛がいなくてもほとんど影響はない」くらいの極端な書き方だった。

 今の川崎の状態の良さを強調するための一文だったわけだが、どうやら憲剛に対してはとても失礼な言葉だったようだ。

 実際には彼でなければ出来ないプレーというものが随所に見られた。つまり、「中村憲剛というのはやはり特別な選手なのだ」ということを、この清水戦を見ていて改めて痛感させられたのである。

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