■敗戦後に唯一見せた笑顔

 そんな小畑が、川崎戦後のミックスゾーンで一度だけ優しい笑顔になった場面があった。それは、先述した石野GKコーチについて聞いたときだ。
 2人で会話をかわしたか尋ねると、「いや、まだ最後に挨拶したぐらいで、今からちょっと会います」と言うので、「試合に出ている姿をチェックしてすごく喜んでましたよ」と伝えると、笑顔になって、こう言葉にした。
「中学・高校のときからずっとお世話になってる方で、本当にお父さんみたいな存在なんです。今日、対戦して負けてしまったのですごく悔しいですけど、J1という舞台で対戦できたのは嬉しかったです」
 J1で試合に出続ければ、他にも出会いはある。今は怪我をしているが、シュミット・ダニエルも日本に帰ってきた。
「そうですね。仙台で活躍した方がJ1にたくさんいるので、対戦できるのを楽しみにしてますし、そのために僕がこの地位を掴むのに必要なのは結果だと思うので、次のチャンスをすごく大事にしたい」
 活躍することで、仙台サポーターも力をもらえる――そう話すと、小畑は目を切り替えて今だけを見据える。
「アビスパ福岡に来て、今はこのチームのために戦っています。仙台はお世話になったチームですけど、僕は今、このチームのために人生を注いでいます。次は必ず勝ちます」
 仙台から巣立った小畑裕馬は、福岡の勝利のためだけに時間を過ごしている。移籍という重い決断をしたからこそ、それが最高の恩返しになる。
 そんな小畑に、仙台サポーターはきっとこう言うだろう、「2度と振り向くな」と。目の前のチームメイトやサポーターのために、その力を見せてほしいと。でも、こうも続けるはずだ。「俺らはいつでもここに立ってるさ」、と。
(取材・文/中地拓也)

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