■「バーチャル広告」という革命

 この広告を世界で最初に導入したのはイタリアのセリエAで、1990年代にイタリアの最大手通信会社(日本のNTTのようなもの)である「TIM」の広告を掲出した。テレビで最初に見たときは、「何と危ないことを」と思ったが、やがて「見せかけ」であることがわかった。そうして興味を引かれることで、すでに広告主と広告代理店の罠に落ちていることになる。

 最近、あるラグビーの試合をテレビで見ていて驚愕した。試合は南半球4カ国のナショナルチームが争う「The Rugby Championship」という大会で、ニュージーランドがオーストラリアをボコボコにやっつけた試合だったが、なんと、ピッチのあちこちに巨大な広告がちりばめられていたのだ。プレーを追って画面が動くと、広告はピッチに固定されたように動かず、次の広告が出てくる。

 すぐに「バーチャル広告」であることはわかった。画面の真ん中に広告を合成し、ピッチは半ば消すが、選手はその上を平気で走っている。「看板に偽りあり」である。ここまできたかと、思わずうなった。

 Jリーグの中継でも、試合前にセンターサークルに広告を映し出す「バーチャル広告」を見たことがある。しかし試合が始まれば、ピッチ上に広告を合成するなど、誰も考えたことがないだろう。別に試合やピッチを「神聖視」しているわけではない。ただ、サッカーにスポンサーがつくのも、巨額のテレビマネーが投資されるのも、すべては世界中の人びとがサッカーという競技、スーパースターたちの超人的なプレーに引きつけられているからにほかならない。肝心かなめの競技自体の魅力を損なうことは、結果としてスポンサーやテレビ中継の価値を落とすものであることを、誰もが承知しているからに違いない。

PHOTO GALLERY 【画像】各スタジアムの広告看板にまつわる写真
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