■Jリーグのレベルをはるかに超えて

 だがオリンピック・チームの中心的メンバーという意気込みで臨んだ昨年1月のAFC U-23選手権(タイ)では、3戦目のカタール戦の前半終了間際に一発退場。まったく正当なプレー、田中が得意とする右足で抱え込むように相手からボールを奪ったプレーで退場処分を受ける。アジアサッカー連盟(AFC)の未熟なVARが介入して主審がオンフィールドレビュー、スロー映像でしかわからないわずかな接触に対し、レッドカードが突きつけられたのだ。

 コロナ禍でJリーグも大幅に日程が狂ったこの年、4-1-2-3システムで戦ったフロンターレにあって、田中は主に右のMFとしてプレー、31試合に出場して5得点を記録した。そしてベストイレブンにも選ばれた。しかしチームがあまりに強かったこととともに、三苫薫という派手な新人のドリブラーが大ブレークし、13ゴールを記録したこともあって、そう大きな注目を集めることはなかった。

 弾むような躍動感、プレーの正確さと試合を読む目の確かさとプレーを決める判断の良さ、そして何よりも90分間走り抜くスタミナは、守田英正らとともにフロンターレに圧倒的な中盤の支配力をもたらした。しかしここであまり大騒ぎされず、今季に向けてさらなる成長のための努力を続けられたのは幸運だったかもしれない。

 2月20日の「富士ゼロックス・スーパーカップ」で今季がスタートを切ったとき、私は田中の躍動感に目を奪われた。体がいちだんと大きくなり、自信にあふれ、Jリーグのレベルを超えたダイナミックさが感じられるようになったからだ。パスを受け、パスを出す流れはさらにスムーズになり、縦につけるときのパススピードと正確さは、間違いなく欧州のトップリーグのレベルだった。それだけでなく、五分五分のボールを自分のものにする力、一対一で相手からボールを奪うプレーがさらに力強くなっていたのだ。

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