「大久保嘉人の春」—振り切れそうなヨシ・メーター(2)まるで「守備もするメッシ」の画像
大久保嘉人選手(セレッソ大阪) 撮影/原壮史

※第1回はこちらから

怪物が目覚めた。史上初の3年連続Jリーグ得点王(2013−15年)を記録した不世出のストライカーが、そのゴールを渇望する心に火を付けた。J1リーグのすべてのクラブのGK、DF、そして監督とサポーターは、震えて待たなければならない。

■フロンターレ指揮官も驚愕のスーパーゴール

 この日のC大阪は、柏戦ではボランチでプレーさせた清武弘嗣を「トップ下」に置く「4−2−3-1」の布陣。緊急事態宣言下、入場者を5000人に限定した試合でC大阪のサポーターははいっていない。4756人の観客の大半は川崎のサポーターだった。だがワントップにはいった大久保は、いきなりその川崎サポーターさえ感嘆させる活躍を見せる。

 前半5分、右から攻め込んだC大阪は、単独突破を思いとどまった坂元達裕が中央からサポートにくる大久保にパス。ボールを受けた大久保はゴールまで30メートル。その瞬間、川崎のDFたちも、味方のC大阪の選手たちも、クロスを入れると思ったのではないか。実際、大久保は「シュート」という雰囲気をまったく醸し出さず(すなわちどこにも余分な力がはいらず)、ゆったりとしたスイングから右足でボールをけった。

 だがそのボールは、生き物のように力強く高く飛び、孤を描いて川崎ゴールの右上隅に吸い込まれた。川崎GKチョン・ソンリョンは必死にジャンプしたが届かなかった。「嘉人のスーパーゴール」と試合後に川崎の鬼木達監督が表現したほど、見事なゴールだった。

 それだけでは止まらない。このリードは川崎の鮮やかな同点ゴールであっという間に帳消しにされたが、前半22分、大久保はふたたびその底知れない才能を見せつける。ゴール正面やや左からのFK。高木のキックは相手の壁にはね返されたが、右に大きくはねたボールを松田陸が拾い、少しドリブルしてクロス。しかしゴール前には川崎の守備陣がしっかりとポジションをとっている。

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