■「いいパスがくれば何点でも……」

 だが誰よりも早くこのボールの落下点を見極めたのが大久保だった。マークする川崎DFジェジエウがその場でジャンプしようとしたのに対し、大久保は松田陸がボールをけった瞬間、即座に外側に動き始める。ファーポスト前にボールが落ちてくる。ゴールまで2メートル。ショートバウンドの難しいボールだったが、大久保はまったく力みを見せず、何ごともないように左足のインサイドでこのボールをとらえ、ゴールに突き刺したのだ。

 2点を取っただけではない。大久保はこの試合で5本のシュートを放った。試合全体を支配していた川崎で最もシュートを放ったのが2点を挙げたFWレアンドロダミアンの3本という事実だけでも、「1試合5本」がどういう意味をもつのか、わかってもらえるはずだ。後半26分には、交代出場のFW加藤陸次樹がコントロールミスしたボールがペナルティーエリア右にいた大久保のところにこぼれてくると、迷わずに右足を振り抜いてシュート。GKチョン・ソンリョンの必死のセーブに防がれたが、正確にゴール左隅をついていた。

「(得点できるかどうかは)いいパスがくるかどうか」と、試合後、大久保は語った。「ここ数年間はいいパスがこなかったから得点数が伸びなかっただけ。いいパスがくれば何点でも取ってみせる」という自信の言葉だった。

 大久保がもつ技術・能力からすれば2試合で見せた3得点はまだ理解できる。だがこの川崎戦の大久保はこれまでにないまったく新しい面も見せた。それは組織的なチーム守備のなかでのコマのひとつとしての機能、最前線での激しい追い回しだ。前半から手を抜かない守備を見せる大久保を見て、「60分間でいいと思っているのかな」と感じたほどだった。だがそうではなかった。後半40分に松田力と交代して退くまで、大久保はまったく手を抜かず、チーム守備に穴を開けなかった。

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