■まるで守備もするメッシのように

 2点目を決める前、前半15分にこんなシーンがあった。川崎がボールを保持し、ハーフライン付近でボールをもつ前を塞がれたジェジエウは、ターンしてペナルティーエリア外まで出てきたGKチョン・ソンリョンにバックパスを出した。だがこのとき大久保は、ジェジエウがターンを始めた瞬間からその意図を察し、ジェジエウがボールをける前に相手ゴールに向かって全速力で動き始めていたのだ。チョン・ソンリョンが少しでも躊躇していたら、大久保がボールをかっさらい、そのまま無人のゴールに進んでしまっていたはずだ。せいぜい数十センチの差だったろう。チョン・ソンリョンの右足が先にボールに触れ、それが大久保の足に当たったところを川崎DF谷口彰悟が拾って、川崎はことなきをえた。

 「メッシは1人でいい。10人いたら試合に勝てない」。そう言ったのはイビチャ・オシムである。メッシほどの攻撃能力をもった選手なら、たとえ守備面では何の貢献をしなくてもチームとしては頼もしいし、勝つために必要だ。しかし守備をしない選手が2人いたらチームは破綻する——。オシムでさえ、「1人のメッシ」を容認していた。現在のC大阪における大久保は、攻撃面ではいわばメッシに当たるのだが、このメッシは守備面でもまったく手を抜かず、チームのために戦い続けるのである。

 だが、大久保がそういう選手であることは2010年ワールドカップで私たちは知っていたはずだ。日本代表岡田武史監督はヴィッセル神戸でそう活躍が目立っていたわけではない大久保を招集、左ウイング(MF)に起用した。大久保は攻撃面だけではなく、守備面でも非常な奮闘を見せてチームのグループリーグ突破に貢献した。

 通常なら、大久保はキャンプ前にはあまり体を動かさず、キャンプで体重を絞ってシーズンに向かう習慣だという。しかし今季、C大阪のキャンプにきたときには、しっかりとコンディションを整えてきたらしい。その姿勢が、そのまま開幕の2試合に表れたといってよい。

※第3回につづく

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