■注目選手(1) MF:松岡大起

  松岡は鳥栖にとっての希望であり宝だ。大きな補強ができない状況だが、幸いなことに鳥栖はユースの整備にも力を注いでいた。2015年に環境を整えると、U15チームは2017、2019、2020年に高円宮杯で、2017、2019年にはクラブユース選手権でそれぞれ優勝し(※2020年の全国大会は中止、九州大会で優勝)、U18チームは2017年から九州プリンスリーグで3連覇を達成して、2019年はクラブユース選手権準優勝、2020年には同大会で優勝している。

 松岡は2019年、U18に所属する高校生でありながら3月のヴィッセル神戸戦でJ1初出場を果たした。アンドレス・イニエスタやフェルナンド・トーレス、そしてその日J初ゴールを決めたダビド・ビジャよりも松岡のプレーは目立っていた。6月にはトップチームに昇格することになった。高校生のうちに正式なトップチームのメンバーになるのは鳥栖史上初のことだった。

 昨年リーグ戦でプレーした時間はチーム最長だった。鳥栖でポジションを確保し、五輪代表候補にもなっている松岡は、育成の象徴だ。いくらチームの財務状況が苦しくても、今松岡をお金と引き換えに放出することはできない。19歳ながら今年の副キャプテンを任せられたことも、チームにとって松岡がいかに特別な存在であるかを表している。

 大畑歩夢中野伸哉本田風智相良竜之介石井快征兒玉澪王斗ら、鳥栖には楽しみな選手が溢れんばかりにいる。大物を獲得しなくても、自前の面白い選手が毎年のように出てくる。ユース出身者がトップチームに多く昇格すれば、その次のユースに良い選手が集まりやすくなる。彼らは活躍でチームを助け、他チームに必要とされれば移籍金でもチームを助けてくれる。堅実路線の中でユースを中心にチームが上手く回るようになれば、それはまさに理想の地方クラブのあり方だ。そうなった時、今回の騒動は鳥栖にとって良い転換点になった、と言えるようになる。

 生まれ変わろうとしているチームの進む道を示す松岡ののびのびとプレーする様子を見ていると、本当に大切なものはすぐそこにある、ということを感じさせてくれる。

MF松岡大起(サガン鳥栖) 撮影/原壮史

 

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