■食文化が豊かな湘南ベルマーレ
それ以来、私は、どんな天候でも歩いていくことにした。かなりの速足で歩いても25分である。平塚駅前の大通りをまっすぐ北上し、歩道橋を渡り、広大な平塚八幡宮の前を通り、旧横浜ゴム平塚製造所記念館の美しい洋館を右手に見ながらその先を右に曲がると、あとはスタジアムまで一本道だ。右手にはお菓子の不二家、万年筆で有名なパイロットの工場が並んでいるが、道沿いには両工場の心づくしでさまざまな種類のバラが植えられており、花の時期にはそれを楽しんでいるうちに、左手に緑豊かな平塚総合公園が見えてくる。
平塚駅からこの公園の入り口までがおよそ約20分。残りは数百メートルなのだが、ここからがまた大変だ。日本庭園を右に、レストラン大原を左に見てスタジアムに向かう道には、両側に所せましとフードトラックが並び、おつまみから「ガッツリ飯」、さらにデザートまで、さまざまな食を楽しむことができるようになっているのだ。ベルマーレの試合を見に来るより、こっちを楽しみにきているのではないかと思えるほど、各トラックに行列ができ、まるで大きな神社の縁日のようににぎわっている。楽しそうな顔、顔、顔をながめ、こちらも楽しい気分になりながらビール片手の人の波をかき分け、ようやくスタジアムに到着するのである。
柏レイソルのホーム、「三協フロンテア柏スタジアム」への歩きは、私が最も好きな「スタジアム道」かもしれない。柏駅から直線距離で1.5キロほどのこのスタジアムは、最初から「歩いてください」という意図で、シャトルバスなどは運行されていない。クラブの公式サイトには「レイソルロード」という、柏駅東口からマクドナルド、柏神社などを経てスタジアムに至る道が案内されており、多くのファンはこの道を歩く。
「レイソルロード」の中核をなすのは、住宅街を突っ切ってスタジアムのある「日立台公園」に向かうおよそ700メートルのまっすぐな道だ。しかしこの道は5メートルほどの幅しかないのに自動車は対面通行で、しかも交通量が少なくない。歩道は狭く、ガードレールがあるのは柏第三小学校の前の100メートルほどにすぎない。試合日には、白線で区切られただけのその道の両端をぞろぞろと人が歩くのである。事故があったという話は聞いたことがないが、私は車を気づかいながら歩くのはあまり好みではない。