■オランダ人を見習いたい

 ところが、海外では、1時間ほどの歩きはへっちゃららしい。2000年にオランダとベルギーの共同開催で行われた欧州選手権を取材したとき、オランダのアルネムのヘルレドームに行ったことがある。ヘルレドームは、「札幌ドームの兄貴」のようなスタジアムで、ドーム型のスタジアムに、外で養生した芝生の乗った台を引き込んで使うというもので、その構造自体にも興味はあったが、残念なことにスタジアムがあるのは「南アルネム」という地区で、市の中心から大分離れた郊外だった。

 そこで、アルネムの中央駅からシャトルバスを使った。スタジアムまで渋滞なしでたっぷり15分ほどはかかっただろうか。だいぶ郊外にきたなと思い、調べてみると約4キロだった。しかしバスの窓から見ると、ぞろぞろと、驚くほど多くの人が歩きでスタジアムに向かっているではないか。オランダ人は元気だなと思ったが、聞くと、「1時間ぐらいだったら、歩くほうが好き」という人が少なくなかった。

 アルネム中央駅から少し南に下ると、ライン川の一部をなす「ネーデルライン川」にぶつかる。巨大な橋がかかっているが、それを渡ると、残り3キロほどは田園風景のなかを歩くことになる。その自然の景観を楽しみながらスタジアムに向かうのが好きだと、話を聞いた多くの人が話した。

 今回紹介したJリーグの「スタジアム歩き」は、平塚と柏と豊田の3つだけだったが、他にも魅力的な「スタジアム歩き」はたくさんある。目的はスタジアムでサッカーの試合を見ることではあっても、その行き帰りの道を楽しみ、いろいろな魅力を見つけ出すのは、それ自体が大きな喜びではないだろうか。

 たとえば、大宮の「NACK5スタジアム大宮」に行くには、「武蔵一宮」である氷川神社の立派な参道を500メートル近く歩くことになる。「スタジアム歩き」は、そのスタジアムがある町の性格や歴史を知る小さな「冒険旅行」であり、どんなに退屈そうに見える道も、町の歩みやさまざまな人びとの生活まで知ることができる。バスやタクシーで行くなんて、そんなもったいないことなど、私にはできないのだ。

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