大住良之の「この世界のコーナーエリアから」 第36回「サッカー界最大のタブー」の画像
ナショナル・フットボール・ミュージアムのショッキングな展示パネル(2012年)。ジャッキー・チャールトンがユニホーム姿でタバコをくゆらせている。 提供/大住良之
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メノッティとクライフの共通点は? このクイズに答えられる人は少ないだろう。1978年ワールドカップで自国に優勝をもたらしたアルゼンチン代表の名監督と、あの「空飛ぶオランダ人」に共通することなんて、果たしてあるのか。もったいぶっても何も出ない。正解はタバコである。二人とも、こよなく紫煙を愛したフットボール紳士なのであった――。

■サッカー選手とタバコの煙

 2012年のロンドン・オリンピックの大会中にマンチェスターにある「ナショナル・フットボール・ミュージアム」を訪れたことは、このコラムでも何回か書いた。この博物館は2001年にイングランド北西部にあるプレストン市の「プレストン・ノースエンド」クラブのスタジアム内につくられたのだが、手狭になったため、マンチェスターの主要駅のひとつであるビクトリア駅前の斬新なデザインのビルに移転した。開業が2012年の7月。私が訪れたのは、開業間もなくのことだった。

 そのミュージアムで最も驚いたのが、この1枚の展示パネルである。リーズ・ユナイテッドのユニホームを着たジャッキー・チャールトン(弟のボビーとともに1966年ワールドカップの優勝メンバーとなり、後にアイルランド代表の監督としても活躍)が、笑顔でタバコをくゆらしている。そしてその大きな文字で、彼自身のこんな言葉があった。

「喫煙を許されていなかったのは、試合に向かう列車と、チームバスの中だけだった」

 サッカー選手と喫煙――。これは大きな「タブー」である。他の競技のことは知らないが、1試合に10キロ以上走らなければならないサッカー選手に喫煙が推奨されないのはもちろんだ。喫煙によって心肺機能が低下し、ひとことで言えば「走れなく」なる。毎日厳しいトレーニングで1試合走れるように努力しているのに、それを無にしてしまうような喫煙に走る選手の気が知れない。

 そう言うのも、もしかしたら、私がまったくタバコを吸わないからかもしれない。吸ったことはある。しかし禁煙した。5歳(!)のときである。近所のおじさんがおいしそうに吸っているタバコを見て、「おいしいの?」とたずねると、「吸ってみるか?」と言われ、思い切り吸い込んだ。とたんにひどくむせ、咳き込んだ。以来、タバコを吸いたいと思ったことはいちどもない。だから申し訳ないが愛煙家の気持ちが理解できない。

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