■大ピンチにとっさのひと言
「う~ん…」
浦和レッズのマッチデー・プログラムをつくってくれという依頼に、私はたじろいだ。フリーランスとしては安定した収入が得られる仕事はのどから手が出るほど欲しいが、リバセッジさんの大変な仕事ぶりを思い出したのだ。だがその直後に口から出た言葉に、私は自分自身で驚いた。それはもしかしたら、一生に何度もない大ピンチのために、前世から用意されていた言葉だったのかもしれない。
「こういう仕事はね……」
佐藤仁司という男は、体はトンボのように細く、いつもメガネの向こうで人のよさそうなにこやかな目をしているが、実はヘビのように執念深く、逃げればどこまでも追いかけてきて説き伏せてしまうという恐ろしい人だった。三菱自動車の新入社員時代には研修を兼ねて営業を担当したが、「飛び込み販売」の売り上げは相当なものだったらしい。「逃げる」以外の理由が必要だった。
「地元でやってもらうべきだ。浦和にプロサッカークラブができるということは、新しい事業が生まれ、新しい雇用や仕事が生まれるということを意味している。それは地元に還元されるべきものだ。マッチデー・プログラムの編集は小さくない仕事になる。地元でできるところを探したらいい」
「たとえばどういうところですか」
彼は中途半端では引き下がらない。
「そうだな……。埼玉新聞はどうだろう。地元紙だから必ず取材にはくるだろう。写真も撮るに違いない。うん、埼玉新聞にやってもらったらいいと思うよ」
そして佐藤さんは埼玉新聞に声をかけた。