■サッカー観戦に不可欠なもの

 それから2年、クラブづくりの初期段階から、私はいわば彼の「個人アドバイザー」となった。深夜に電話で話し込むこともあったし、彼が退社後、私の事務所に寄って長時間話すことも珍しくなかった。そしてJリーグ最初の公式戦として1992年の9月にナビスコカップがスタートすることが決まったとき、彼は私に「マッチデー・プログラム」の制作を求めてきたのである。

 1970年代に『サッカー・マガジン』の編集部で仕事をしていたとき、ロンドンを中心に欧州のサッカーを取材していたカメラマンの富越正秀さんから届く航空荷物を開けるのがいつも楽しみだった。荷物の中心は試合を撮影した未現像のフィルムなのだが、富越さんはいつも翌朝の新聞とともに試合の「マッチデー・プログラム」を同封してくれた。編集作業の資料にとの気づかいだった。

 クラブによって千差万別だったが、B5判、20ページから30ページほどのものが多く、監督からのコメント、自チーム紹介、相手チーム紹介、前試合のレポート、シーズン全試合の出場者一覧、きょうの試合の予想メンバーなど盛りだくさんな内容は、東京の編集部にいる私を、あっという間にスタンフォードブリッジやオールドトラフォードへと運んでくれた。イングランドのファンは、試合前に必ずこのマッチデー・プログラムを買い、それを読みながらキックオフを待つことも知った。マッチデー・プログラムはサッカー観戦に不可欠な「お供」なのである。

 数あるマッチデー・プログラムのなかでも当時世界最大の発行部数を誇っていたのは、マンチェスター・ユナイテッドだった。当時の収容者数は6万人台だったはずだが、毎試合20万部のマッチデー・プログラムを刷っていると豪語していた。世界中にファンがいて、定期購読しているというのだ。信じ難い話だった。

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