■南アフリカでジャンプシュート
さて、私がいちばん困った「小便器」は、南アフリカのブルームフォンテーン、「フリーステートスタジアム」のメディアセンターのものだ。スタジアムに隣接するラグビーグラウンドのピッチ上に仮設でつくられたメディアセンター。そこを使用する人たちのためのトイレは、ラグビーグラウンドの観客スタンド下に設けられた選手更衣室のものだった。その小便器が恐ろしく高かったのだ。
私は日本人でも小柄で、身長は160センチである。男性用の小便器は、最近の日本では子どもでも使えるように低い位置まであるものが多いから、困ることはまずない。だがブルームフォンテーンの小便器は玉子を斜めに切ったような形であり、そのフチが恐ろしく高かった。試みに測ってみると、床からの高さが80センチもあった。この国のラグビー選手は大男ばかりなのだろうか。なんとか背伸びしながら用を済ませたが、「ブルームフォンテーン」という名は、大会前にはまったく期待されていなかった日本代表がワールドカップ初戦でカメルーンに2-1で勝ったというサッカー史的な事実より、私には、「ジャンプしなければできないトイレ」として、鮮明に記憶に焼きつけられた。
ブリュッセルのキングボードワンスタジアムで小便器の中に1匹のハエが止まっているのを発見したのには目をむいた。だがよく見ると、プリントしたシールを貼りつけたものだった。女性にはあまり知られたくないのだが、たとえば野外で小用を足そうとするとき、足元に虫などを見つけると、男性は無性にそこに向かって「放水」したくなる。これは子どものころから刷り込まれた本能のようなもので、その男性の人格や品性とはあまり関係がないと私は信じている。ブリュッセルの小便器は、その男性心理を巧みに利用したものだった。ハエを狙って「放水」すれば、周囲をあまり汚さないという仕掛けだ。
バイエルン・ミュンヘンのホームスタジアムであるアリアンツアレーナでは、緑のピッチを模したプラスチック製の網の上に白いゴールが置かれ、ペナルティースポットと思しきところに赤いボールを置いた形のものがあった。これも、ボールを狙えば間違いが起こらないということだろう。