■韓国ソウルで人生最高の経験を
埼玉スタジアムで小用を足そうとするとき、私は毎回「パンダがいる」と思う。小便器の底にパンダの顔があるのだ。TOTO(サッカーくじではない。念のため)製の小便器の底のフタ(「目皿」と言うらしい)が、どう見てもパンダの顔なのだ。一刻も早く「解放」したい私は気にしないが、パンダ好きの人なら、一瞬躊躇するかもしれない。ちなみに、このフタは通販サイトで1個700~800円で買うことができる。
キングボードワンスタジアムに見るように、ベルギー人たちは「トイレを楽しく」という精神を人一倍もっているらしい。スタジアムではないが、ブリュッセルの空港では、小便器の上部に広告を流すモニターを組み込んだものを見たし(ついにここまできたか!)、別のトイレでは、隣に立つ人との仕切りのところにギターやサキソホンを取り付けたものを見た。
スタジアムのトイレの話からどんどん横道にそれていって申し訳ないが、いったん「解放」し始めた放水のように、どうにも止められない。まあ、もうひとつ聞いてほしい。
私が使った最高の男子用小便器は、韓国の首都「Nソウルタワー(旧南山タワー)」の展望台にとどめを刺す。タワー自体は高さ236メートルだが、標高243メートルの南山公園上にあるため、東京スカイツリーとほぼ同じ高さからの大展望を楽しむことができる。タワーに昇ったとたんに「マーキング」本能に目覚めた私は、さっそくトイレに向かう。そしてそこでとんでもないものを発見する。この展望台の男子トイレの小便器は、あろうことか、広い展望窓に面し、ソウルを一望しながら自己を解放することができるのである。
「人生最高の小用」を足しながら、私は豊臣秀吉にまつわるあるエピソードを思い起こしていた。小田原落城が近づいたある日、秀吉は徳川家康を誘って小田原城を眺め下ろす場所で「連れション」をし、そのついでのように、「小田原落城の暁には、貴殿に関八州を差し上げよう」と言ったという。ソウルを見下ろしながら秀吉を思い起こすなど、韓国の人びとが聞いたら怒髪天をついてしまいそうだが、ともかく最高のトイレであることは間違いない。ソウルを訪れる機会があったら、何を置いてもNソウルタワーに昇ることをお薦めする。
さて、スタジアムのトイレに話を戻そう。