■とても清潔なイスラム圏の場合
一般に、イスラム圏の古いスタジアムには、男性用の小便器がなく、「金隠し」のない和式トイレのようなもの(床に穴が空いているだけ)が多く、やや戸惑う。これで「小用」を足すのことにはそれほど困らないのだが、「大」のほうはちょっとする気にはなれない。水洗ならまだいいが、中央アジアの国のスタジアムには、穴の下に虚ろな空間があるだけのものもあり、子どものころ(昭和30年代まで、私の実家の地域には下水道施設が整っておらず、江戸時代とさして変わらぬトイレ状況だった)の恐怖を思い出した。
もちろん、最近はイスラム圏でも小便器があり、「個室」にも座って使う洋式のトイレが設置されている。2022年にカタールのワールドカップに行こうとしている人には、「ご安心あれ」と言っておきたい。
ただ、イスラム圏で個室のトイレにはいると、恐ろしくビショビショなものに出合うことがある。これはイスラムの聖典である「コーラン」に原因がある。毎日5回、時間を定められて行われる礼拝の前に、手だけでなくひじ、そし口、顔、髪の毛、耳の穴、そして足まで洗わなければならないと、コーランは定めているからだ。イスラム圏のトイレ個室には、便器の横の壁に「ピストルノズル」を付けたホースが付けられており、ウォシュレットのように使うだけでなく、足も洗う。だからトイレ中がビショビショになってしまうのだ。
ただ、「清潔であることは信仰の半分を成就したことになる」というコーランの教えによって、イスラムの人びとはいつもとても清潔にしている。イスラム圏で今回の新型コロナウイルスの流行もそれほどではなかった国があるなら、コーランの教えがよく守られているおかげに違いない。