■「4月と5月の積み上げが大きかった」

 6月に入るとW杯経験者を呼び戻したこともあってチームは一気に安定し、エルサルバドル戦を6-0、ペルー戦を4-1と勝利。3月にはうまく消化できていなかったサイドバックが中に入る形も、ぎこちなさが少なくなった。選手の構成が変わったとはいえ、わずか3か月で何があって急な改善をはかることができたのか。

「3月は新しいコーチも入ったばかりで、お互いが完璧なコミュニケーションではない中で10日間の合宿を過ごしました。そして、その後の4月、5月にコーチングスタッフにも、海外視察に行ってもらいました。彼らには欧州チャンピオンズリーグを見てもらって、今の世界トップの基準を確認してもらい、その中で実際に日本選手たちがどのぐらい世界のトップ・オブ・トップとやれているかということも感じてもらいました。

 そうしている中でコーチングスタッフ同士のコミュニケーションもどんどん高まってきて、それが6月にうまく積み上げられてチームに落としこめたと思います。なので、代表戦がなかったとはいえ、4月と5月の積み上げが大きかったと思います」

 3月以降、森保一監督は名波浩、齊藤俊秀、前田遼一らのコーチたちにピッチ上での指導の大半を任せて、自身は「マネジメント」に徹している。その新しい指導の形がよりハッキリしたのも、6月シリーズだった。

「監督のマネージメントも少し変わったと思いますね。ある程度コーチに任せて、新たに加わったコーチのいいところをチームに還元していくことを考えて、少し監督が引く感じにしたと思います。

 マネジメントは森保監督が全部行っていますが、名波コーチは攻撃面で中心になっていろいろ模索しているし、それぞれの強みを生かしてチームに還元させているのでまだまだ伸びしろがあるし、彼らのいいところを、もっともっと出せると思います。

 齊藤コーチと名波コーチは1998年フランスW杯の選手だし、そういうW杯を実際に経験している人が指導者に入ってきましたね。そして、森保監督は1992年の広島大会、名波コーチは2000年のレバノン大会、前田遼一コーチは2011年のカタール大会というふうに、アジアカップでカップを掲げた経験もあります。コーチ陣の面でも、日本の経験値は間違いなく上がっているし、それが生きていると思いますね。

 それから森保監督が現在のような体制にしているのは、コーチングスタックみんなのいいところを活かすということもそうなのですが、森保監督がマネージャーとして本当に大事なことに集中できるという利点もあると思います」

(取材・森雅史)

 

■山本昌邦プロフィール■

やまもと・まさくに 1958年4月4日生まれ。

選手時代をヤマハ発動機サッカー部(現・ジュビロ磐田)で過ごし、サッカー日本代表としてもプレー。引退後は指導者の道を歩み、同部でのコーチを務める。その後、日本代表のコーチとしてフィリップ・トルシエ氏やジーコ氏を支え、2004年のアテネ五輪では日本代表監督を務める。そして、ジュビロ磐田の監督に就任し、Jリーグでも指揮を執った。今年2月から、日本サッカー協会のナショナルチームダイレクターの職に就く。

(2)へ続く
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