■PKの瞬間のあいまいさ
私の名前が「ペナルティーエリア」であるのは、あくまで、この内側で反則を犯すとペナルティーキックであるという地域を示すものだ。その意味では、私の小さな弟であるゴールエリアも、私の一部であるということがいえるだろう。ちょっとかわいそうだが、私の弟は、私の所有地の一部を借り受けて自分の役割を果たしていることになる。
ちなみに、メートル法のルールブックによる私の広さは、16.5メートル×41.32メートルで681.78平方メートル。弟のゴールエリアは5.5メートル×(5.5×2+7.32)メートル=100.76平方メートルということになる。もうひとつちなみに言うと、ラインの幅は通常12センチだが、この幅も「エリア」に含まれる。ペナルティーキックのときにキッカー以外の選手が「ボールから9.15メートル以上離れたペナルティーエリア外」でリバウンドを狙うが、彼らが私のラインを踏んでいても上半身が大きくエリア内にはいっていても主審がとがめないのは、サッカーのもつもうひとつの「いい加減さ」であろう。
今日のルールでは、GKが手を使うことが許されるのは私の中だけということになっている。それならば「ゴールキーパーエリア」としてもいいのではないか。だが前述したように、私が誕生した当時にはGKは自陣全体で手を使うことが許されており、私の中に限るとルールが改正されたのは、私がちょうど10歳の誕生日を迎えた1912年のことだったため、その間に名称が定着してしまったのだろう。
私としては、「刑務所」を連想させる「罰の地域(ペナルティーエリア)」などという名称は好みではないのだが、まあ、120歳にもなれば細かなことは気にならなくなるものである。