■世界各地での誤差
そしてそれから11年後の1902年、スカバローの「ザ・グランド・ホテル」での会議でさまざまなラインが整理され、現在とまったく同じ形で、私と、私の小さな弟、ペナルティーエリアとゴールエリアが誕生したのである。ペナルティーキックをけることができるゴールラインと並行な12ヤードのラインはなくなり、ゴールの中央から12ヤードのところにマークをつけ、「ペナルティーキックマーク」と命名された。
私たち兄弟の誕生により、サッカーのピッチに引かれたラインやマークはほぼ今日の形になった。この後付け加えられるのは、「任意」のテクニカルエリアなどを除くと、1937年のペナルティーアークと、1938年のコーナーエリアしかない。
その形から「D」などと呼ばれることもあるペナルティーアークは、PKのときにキッカー以外の選手が離れていなければならない距離(10ヤード=9.15メートル)を示すもので、けっして私の一部ではない。ペナルティーアークを指しながら私に向かって「お前もトレーニング不足じゃないのか。ずいぶん腹が出てきたな」などとからかうのは、絶対にやめてもらいたい。私は、120年前に生まれたころの服も着られるほど、体型を維持しているのである。
私の姿は、両ゴールポストの内側からコーナーに向かって18ヤード(16.5メートル)のところにゴールラインに垂直に18ヤードのラインを引き、その先端をゴールラインに平行のラインで結ぶという形で描かれる。緑の芝の上に真っ白いペンキで描かれた姿を鏡で見ると、私はうっとりしてしまう。私はナルシストだろうか。両ゴールポストの内側間の距離は8ヤード(7.32メートル)だから、横幅は44ヤードということになる。
44ヤードとは、メートル法に換算すると41.2336メートルということになっている。しかしサッカー・ルールブックの換算値によれば41.32メートルとなり、8.6センチほどのずれがある。私には、世界中の何十万あるいは何百万というピッチに「クローン」のように同じ規格の仲間がいるのだが、メートル法を使う国とヤード・ポンド法を使う国で微妙に大きさが違うのは、サッカーという競技のもつ良い意味での「いい加減さ」ではないか。