■「今日の試合だけに関しては…」すでに気持ちは切り替わっている

 浅野個人の思いも、強かったはずである。

 2016年のリオ五輪で2ゴールを挙げ、直後に開幕したロシアW杯アジア最終予選では貴重な得点も記録した。しかし、所属クラブでプレータイムが減ってしまったこともあり、本大会のメンバーには選ばれなかった。

「4年前から1日も欠かさず、こういう日を想像して準備してきたので、それが結果につながっただけかなと思います。いま振り返っても、あの日ああしておけば良かったという日は一日もなくて」

 サンフレッチェ広島在籍時の指揮官でもある森保一監督のもとでは、チーム結成当初から日本代表に名を連ねてきた。ところが、カナダ戦までの58試合で、ピッチに立ったのは20試合にとどまる。スタメンは8試合だ。FWの序列で最上位に立つことのないまま、カタールW杯を迎えることになった。

 この試合でもチャンスを生かせなかった。それでも、板倉とのコンビネーションを生かして、大きな仕事をやってのけた。

「今日の試合だけに関しては、ヒーローになれたかなと思います」

 歴史を変える立役者となった28歳は、引き締まった表情のまま取材を終えた。今大会に賭ける思いが強く、大きく、重いからこそ、すぐに気持ちを切り替えたのだろう。4年分の思いをすべて解放するのは、まだ少し先になる。

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