■審判にも難しい判断の基準

 ともかく、現在のハンド判定は混乱のさなかにあるように思えてならない。至近距離からでも手に当たったボールは、その手が少しでも体から離れていれば反則となり、それがペナルティーエリア内ならPKだ。だが人間の体は足と手(腕)が連動するようになっている。相手の攻撃を防ごうと足を運べば手も動く、その瞬間にボールがきたら、よけようなどない。

 2019年の女子ワールドカップ・ラウンド16。相手のシュートがなでしこジャパンの熊谷紗希が下げた手に直撃。PKの判定でなでしこジャパンは敗退した。熊谷はけっして「体を大きく」していたわけではない。ごく自然な体の運びのなかで、手が少し体から離れていた。

 ことしのJリーグ第29節、浦和レッズ×柏レイソルの終盤に柏のDF北爪健吾の左手に当たったボール。北爪は浦和MF関根貴大のクロスをカットしようと、関根の足元にスライディングをかけた。その左腕は明らかに「支え手」(いまはその規定はないが)だった。しかしスライディングの勢いのなか、少し体の後ろに開く形になった。

 私は、佐藤隆治主審の判定が間違っていたとは言わない。現在の競技規則やさまざまな試合での判定基準に従えば、ハンドの反則とするのが正しかったのに違いない。しかしこれがマラドーナやアンリの行為と同じような、罰則に値するものなのだろうか(マラドーナもアンリも実際には罰せられなかったが…)。ペナルティーエリア内での守備側のハンドの反則はPKの判定であり、試合を左右しかねない重大なものだ。レフェリーたちだって、本当は、守備側にとってこんな気の毒な判定などしたくないに違いない。

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