大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第101回「“ハンドボール”とはなんぞや?」(4)本来の判断基準を忘れさせる解釈の「朝令暮改」の画像
やはり、何より大事なのはフェアプレーの精神だ 写真:渡辺航滋

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、PKか否か、境界は脇の下の最も奥の位置?

■笑ってしまう解釈の「朝令暮改」

 ここ数年のハンドの解釈における「朝令暮改」ぶりは思わず笑ってしまうほどだ。

 ハンドの大原則はあくまで「意図的に」であり、偶発的に手に当たっても反則ではない。それはいまも変わらない。2019/20競技規則では、攻撃側は、偶発的にでも手に当たって相手ゴールにはいったり、手に当たった直後に自分でけり込んだり、得点の機会をつくった(アシストした)場合には反則になる、すなわち得点を認めないことになった。ところがわずか2年後、2021/22の競技規則では、「アシスト」の場合には、偶発的なハンドは反則にしないことになった。この違いは、とても大きかった。

 また2019/20版ではスライディングなどで体を支える手にボールが当たっても反則にはならないと明記されたが、これも2年後の2021/22版では表現が消され、ただ手や腕を不自然に広げた状態でボールが手に当たったら反則とされた。

 2021/22版の競技規則には、また、ハンドの反則になる図解も出てファンを驚かせた。使っていけないのは手や腕であって、肩でのプレーは反則にならない。これがVAR時代になり、ボールが当たった体の部位が映像でクリアになったとき、「これは腕か肩か」の明確な基準が必要になったのだという。「ハンドの反則を判定するに当たり、腕の上限は脇の下の最も奥の位置までのところとする」という文言がついたが、はっきり言ってこの文言と図には笑ってしまった。

 2022/23版の競技規則には、その図が正面と側面、そして腕を上げたときの3種になっており、VAR時代の「ミリ単位の精度」の思想がさらに進んでいることが垣間見られて興味深い。

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