大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第97回「出してくれたらお返しするのがマナー?」(1)見落としてはいけない「アンフェアゴール」の伏線の画像
世界中でフェアプレーが訴えられているが… 写真:渡辺航滋

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は「サッカー独特の『フェアプレー』」。

■「フェアプレーデイズ」の試合

 9月3日に行われたJリーグの第28節、アビスパ福岡名古屋グランパスで、非常に興味深い出来事があった。前半24分、名古屋MF稲垣祥のキックオフのボールを受けたFW永井謙佑がそのままゆっくりとドリブルで進み、立ったままの福岡GK村上昌謙の横を通してゴールに流し込み、名古屋の2点目を決めたのだ。永井のドリブルの進路には何人もの福岡の選手がいたが、誰も止めようとしなかった。

 ことの起こりは19分、福岡MFジョルディ・クルークスが名古屋DF藤井陽也の強烈なタックルを避けながら吹っ飛び、倒れたことにあった。中村太主審はファウルを取らず、福岡はボールを拾ったDF前嶋洋太が右サイドを前進、ペナルティーエリアに送るが、戻ってきた名古屋MFレオ・シルバがカット。クルークスが倒れたままでのたうち回っているのを指さしながら、レオ・シルバはそのままタッチラインにボールを出した。

 相手チームであっても、大けがをした恐れのある選手を放ってはおけない。日本でプレーすること10シーズン目、36歳のベテランらしい配慮のあるプレーは、フェアプレーの鑑といえる。この日は、日本サッカー協会の「JFAリスペクトフェアプレーデイズ」への協力試合で、キックオフ前には、福岡・前寛之と名古屋・稲垣の両キャプテンが「差別・暴力根絶宣言」を行ったばかりだった。

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